中武 昂誠 コンクリート構造の設計に用いる限界ひび割れ幅の物理的意味の検証 下村 匠 鉄筋コンクリート(RC)構造物の設計における限界ひび割れ幅は,主に鉄筋腐食の開始抑制を主眼としているが,腐食進行後の構造性能に対する有効性は未解明である.例えば,ひび割れ幅が小さければ,仮に鉄筋腐食が生じてもその進行は緩やかであり,鋼材断面の減少も均一広範囲に生じるため,部材全体の性能低下は平均的に進み比較的穏やかであると推測される.一方,ひび割れ幅が大きければ,ひび割れ部で局所的に著しい腐食が進行し,鉄筋の断面欠損が特定箇所に集中することで,部材の耐荷力や変形性能が急激に低下する懸念がある.そこで本研究は,鋼材腐食の限界ひび割れ幅によるひび割れ制御が,鉄筋腐食が生じた後の構造性能の低下に対しても有効な意味を持つかを実験的に明らかにすることを目的とする.実験では,異なるひび割れ幅(w=.12,0.25,0.60,1.00 mm)を導入したRC柱部材に対し,電食試験による試験体の腐食後,一軸引張試験を実施して力学特性の変化を評価した.試験後は鉄筋をはつり出し,軸方向の腐食量分布を詳細に測定した.実験の結果,ひび割れ幅が鉄筋の腐食分布に影響を及ぼし,その腐食の不均一性が部材の耐力低下を決定づける要因となることが明らかとなった.具体的にひび割れ幅と腐食分布に着目すると,ひび割れ幅が大きくなるほどひび割れ直下の腐食が進展して鉄筋断面積の不均一性が大きくなる傾向が認められた.腐食分布と力学特性の関係においては,鉄筋の最小断面積が部材の耐荷力を決定する支配的な要因であることが明らかとなった.試験体に発生した平均ひび割れ幅がw=0.25 mmの試験体において,降伏荷重が最も低い結果となった.これは,試験体に発生したひび割れ幅の平均値は小さくなったものの,一部に大きなひび割れが発生していたため,局所的に生じた最小断面積の位置で部材の耐力が決定されたためである.今回の実験では,ある特定のひび割れ幅を境に構造性能が一律に破綻するような明確な転換点(閾値)を見出すことはできなかったが,ひび割れ幅の増大が鉄筋断面積分布の不均一性を招き,局所的な腐食の進行によって構造物全体の変形性能や耐荷力が支配されてしまうリスクを明確に示した.以上の結果から,現行の限界ひび割れ幅による制御は,単に腐食開始を遅らせるだけでなく,腐食が生じた後の致命的な局所欠損や,それによる急激な変形性能・耐荷力の低下を回避する上でも重要な物理的意義を持つことが示唆された.