櫻井 優 多様な乾湿条件下におけるコンクリート中の水分塩分連成移動解析 下村 匠 コンクリート構造物は,社会インフラとして耐久性が求められるが,塩分が内部へ浸透することで鉄筋が腐食し,塩害が問題となっている.特に,電力ケーブルを収容する地下洞道では,地下水の漏水による吸水と,電力ケーブルの発熱による乾燥が場所ごとに混在する複雑な環境にさらされている.このような環境下では,水分と共に移動する塩分が特定箇所に濃縮され,劣化を引き起こす事例が報告されている.従来の解析モデルでは,毛細管現象による吸水と,拡散現象による乾燥を別々の物理モデルとして扱っていたため,これらが隣り合う複雑な境界条件を連続的に計算することが困難であった.そこで本研究では,吸水と乾燥を単一の拡散方程式で統一的に扱う新たな数値解析手法を構築し,複雑な環境下でのコンクリートの劣化予測を可能にすることを目的とした.本研究では,物理現象としては異なる吸水と乾燥を,工学的な便法として一つのモデルで表現するため,飽水値を固定境界条件とした拡散モデルを採用し,これを2次元解析へと拡張した.具体的には,吸水面の近くでのみ水分の移動しやすさを数値的に補正することで,計算プログラムを複雑化させることなく,吸水時の水分浸透を再現する手法を確立した.この手法の妥当性を検証するため,コンクリート供試体の一面を水に浸し,反対面を乾燥させる実験を行った.実験は標準的な地下環境を想定した20℃と,高温環境を想定した60℃の2条件下で実施し,水分と塩分の分布を測定した.さらに,構築した解析モデルを用いてこれらの実験結果の再現を試みるとともに,実構造物を模した2次元の複雑な条件下でのシミュレーションを行った.実験の結果,20℃の環境では水分が供給されるため塩分が内部へ浸透するのに対し,60℃の高温環境では乾燥による水分の蒸発が激しく,塩分が表面付近に留まり濃縮されるという,環境温度による塩分分布の逆転現象を明らかにした.解析による検討では,提案手法が20℃の標準的な環境において実験結果を再現できることを確認した.一方,60℃の高温環境では,乾燥の影響を表現しきれない課題も明らかとなり,適用範囲を明確化した.本研究の2次元解析では,吸水面と乾燥面が隣接する条件において,吸水部から入った塩分が乾燥部側へ移動し,その境界付近で水分が蒸発して塩分濃度が高くなる現象を再現することに成功した.これは,実際の電力洞道で確認されている局所的な劣化箇所の発生メカニズムを物理的な裏付けをもって説明するものである.本研究により,吸水と乾燥が混在する複雑な環境におけるコンクリート内部の塩分移動を,簡便かつ実用的に予測する手法が確立された.