永井瞭太 新潟市周辺海域における事故情報分析に基づく離岸流による水難事故発生特性の把握 犬飼直之  本研究は,新潟市周辺海域における水難事故の実態を統計的に整理し,とくに離岸流との関係から事故発生の特性と要因を明らかにすることを目的としている.全国的にみても夏季の水難事故は毎年約450件前後で推移し,大きな減少はみられない.そのうち半数以上が海で発生しており,新潟県も例外ではない。長い海岸線を有し,海水浴や釣り,マリンスポーツなど多様な利用が行われる新潟市周辺では,事故の再発防止に向けて海象条件と事故実態を関連づけた検討が不可欠である.2018〜2024年のデータを分析すると,新潟市周辺の水難事故は夏季,特に7〜8月に集中していた.これは海浜利用者の増加と強く対応している.年齢別では成年層が最も多く,マリンレジャー中の事故が中心であった.一方,高齢者では自殺や釣り中の転落事故が目立ち,未成年では夏季の遊泳中事故が主であるなど,年齢層ごとに事故形態が異なっていた.事故を内容別にみると,マリンレジャーが約半数を占め,その中でも遊泳中事故が突出して多い.2001〜2024年の長期的傾向でも同様で,マリンレジャー中事故181件のうち134件が遊泳中であり,その約44%が離岸流に起因していた.さらに,風浪や急激な水深変化を含めると,遊泳中事故の約7割が自然要因と密接に関係していた.離岸流事故と波高の関係を整理すると,必ずしも高波浪時に事故が集中しているわけではないことが明らかとなった.波高0〜0.6mの一般に「海水浴可能」と認識される条件下でも一定数の離岸流事故が発生しており,「低波高=安全」という単純な図式は成立しない.既往研究によれば,波高0.3〜0.6m程度でも離岸流の流速は0.2〜0.4m/sに達する可能性がある。.この流速は,足が海底に届かず立ち泳ぎや手?き動作に頼る状態では逆らうことが難しい水準である.特に,腰から胸の水深へ移行する帯域では踏ん張りが効かなくなり,移動能力が急激に低下する.その結果,比較的弱い流れであっても沖方向へ流され,焦りや体力消耗が重なって事故に至ると考えられる.  以上より,新潟市周辺の水難事故は,季節的利用増加を背景に,遊泳行動と離岸流が強く結びついて発生していることが明らかとなった.事故の本質は波の高さそのものではなく,利用者の身体条件と海象条件が交差する状況にある.したがって,今後の対策には,波高のみを基準とした安全判断を見直し,離岸流の発生特性や地形条件を踏まえた総合的なリスク評価と,利用者への分かりやすい情報提供が重要である.