今野蒼 過疎地域における路線バスの縮小傾向と補助金制度に関する研究 加藤哲平  路線バスは交通弱者の足のみならず,自家用車による送迎交通の抑制といった効果の面からも重要なインフラである.一方で,全国における路線バスの廃止キロは増加傾向にある.多くの路線バス事業者は赤字だけでなく乗務員不足の問題にも直面しており,こうした状況がさらなる減便,利用者離れを生んでいる.この負のスパイラルからの脱却を目指すうえで,現行の補助金制度については収益構造に着目した見直しが必要であると考えられる.  バス事業の経営が厳しい地方部においても,学生輸送を主に担う路線は収支率が良い場合がある.学生旅客の多くが利用する通学定期券は,教育機会均等などの社会的要請から割引されており,低廉な価格で利用可能である.補助金によって運営されている路線では,利用者数の指標となる「平均乗車密度」が運送収入ベースの為に割引旅客によって実際の乗車密度よりも小さく算出されることが多い.しかしながら割引分について自治体による補填はない.このため,国庫補助金の「みなし運行回数によるカット(以下,密度カット)」が行われやすい傾向にある. また,財政規模が小さい自治体においては,バス路線維持に関する補助金支出により社会厚生に与える損失が大きいとする指摘がある.よって,自治体の財政規模の違いによって自治体の補助金支出の判断が異なる可能性がある.  そこで本研究では新潟県長岡市を対象に,まず1995年から2025年にかけてのバス路線縮小の傾向を整理した.その結果,全ての路線が縮小の一途を辿るわけではなく,一部には維持・拡大の傾向を持つ路線も見られた.したがって,全ての路線を縮小傾向と位置付けず,区別や整理が必要であることが明らかになった.さらに,事業者ヒアリングから乗務員不足を特に課題とする声が寄せられた.特にも学校輸送のピークを賄いにくくなっていることから,輸送量不足が発生している.よって,学生など割引運賃を外部から補填することにより収支率を向上し,乗務員の待遇を改善することの必要性が示唆された.  次に,長岡駅を発着する35のバス路線を対象として,パラメータを仮定の上でモデル分析を行った.この結果4路線において,縮約すると社会的便益の減少をもたらすが平均乗車密度が基準以下のため縮約される結果となった.また,縮約を防ぐために必要な割引補填割合θ*は路線ごとに異なる結果となり,中には5割以上の補填が必要な路線もあった.このθ*が大きい路線ほど次に縮約が起こる可能性が高い路線と考えることができ,θ*は縮約可能性のベンチマークとなり得る指標であるといえる.さらに,財政規模の違いの影響を試算したところ,厚生損失が大きい,すなわち財政規模が小さい自治体における路線についてはより早く縮約が進行する可能性が示された.このことから,現状は国や県,市町村という財政規模の異なる主体が協調して補助する方式の補助金制度では,縮約の意思判断の違いが生まれ足並みが揃わない可能性が示唆された.  以上より,地方路線バスの維持に関して,割引による減収を補填する制度や財政規模の違いによる影響を抑える制度の必要性が示された.