高橋侑生 身近な場所の浸水情報が避難行動に与える影響に関する研究 佐野可寸志  水害時に行政から避難情報が発令されているにもかかわらず,多くの住民が危機感を感じず,避難行動を取らないという課題がある.そこで本研究では,住民にとって身近で馴染みのある場所の浸水状況などを「地域情報」と定義し,この地域情報が住民の避難意思にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とした. まず,行政による情報提供の実態を整理するため,令和元年度東日本台風時の長野県飯山市における防災行政無線の放送事例を分析した.その結果,河川敷グラウンドの浸水といった具体的な地点を示す地域情報が用いられており,住民に状況を身近に伝える工夫がなされていたことが確認された.一方で,新潟県内7自治体へのヒアリング調査からは,誤解の発生や業務負担,迅速性・簡潔性の確保といった理由から,行政主体で地域情報を積極的に発信することは難しいという認識が共有されていることが明らかとなった.次に,住民間での情報共有に着目し,長岡市内の町内会を対象としたヒアリング調査を実施した.その結果,避難判断までの時間的余裕が小さい地区の場合には,特定地点の浸水状況といった地域情報の有効性が限定される可能性が示唆された.一方で,神社など住民に広く認知されたランドマークが存在する地区では,その浸水状況が地域情報として活用されうることが示された.  さらに,蔵王二丁目町内会および表町1-1町内会を対象にアンケート調査を実施し,地域情報を含むメッセージが住民の行動意向に与える影響を統計的に分析した.その結果,地域ごとの分析では効果に差が見られたものの,地域情報を含むメッセージが既存の情報と比べて避難に向けた行動を促す傾向が認められた.特に,行動を起こすか否かの判断において,地域情報の提示が意思決定に影響を与えている可能性が示唆された.また,防災の重要性に対する認識そのものには有意な差は見られなかった一方で,水害切迫時にどのような避難行動を取るかという行動選択や,水平避難に関する理解といった点では,地域情報の影響が確認された.  以上より,地域情報は全ての住民に効果を発揮するものではないが,避難に関する知識や一定の避難意向を有する住民に対して,行動を後押しする情報として有効であることが明らかになった.