野々垣修慶 確率降水量と河川氾濫シミュレーションを用いた姫川・旧猫鼻橋流出時の河川状況の解明 陸旻皎  姫川は糸魚川―静岡構造線に沿って流下する急峻な一級河川であり,古来より水災害に見舞われてきた.この流域を南北に結ぶ国道148号の起源は,古くから「塩の道」として知られる千国街道に遡る.車両交通が発展した明治維新以降,旧来の葛葉峠ルートに代わる平坦な姫川沿いの新道が整備された.しかし姫川東岸の新道は自然災害に対して極めて脆弱であり,特に姫川を渡る猫鼻橋は度重なる流出被害に見舞われ,再び内陸の葛葉峠ルートへと戻されるに至った.こうした当時の道路インフラと気象状況の関連性を紐解くことは,地域の防災史を理解する上で極めて重要である.しかし当時の降水量データは皆無である.そこで本研究は,姫川流域を代表する確率降水量と過去の文献を用いて,猫鼻橋流出時における降雨規模と河川状況を定量的に明らかにすることを目的とする.  研究方法は,現地調査・文献調査,降水量の算出,河川氾濫シミュレーションの順に行った.現地調査および文献調査は,既往資料の精査に加え,現地踏査や遠方からの目視による地形確認を行い,歴史的事象の発生場所と当時の状況を照合した.降水量は流域の特性を反映するため,野々村らが提唱した手法を用いて流域を代表する確率降水量を算定した.その上で,算定結果に基づき「短時間集中型」と「平均型」の二つのハイドログラフを作成した.河川氾濫シミュレーションは,iRICを用いて行った.計算負荷低減のため,解析上流端の流量は合理式を用いて算出し,これを流入端の境界条件として設定した.これらの手順により,降雨パターンの違いが最大水深に与える影響を検証した.  解析の結果,姫川流域の日最大1時間降水量は長期的に増加傾向にあり,歴史的事象発生時の降雨規模を推定する手法の有効性が確認された.特に確率年2年の日最大1時間降水量44mm/hと日積算降水量125mm/dayを用いて行ったシミュレーション解析では,短時間集中型の降雨において旧猫鼻橋推定地点で最大水深30.60mを記録した.これは本研究で定義した橋梁流出条件を超過している.以上より,国道148号の経路変遷を招いた要因は,再現期間2年程度の発生頻度を持つ集中豪雨に対する当時の交通インフラの脆弱性にあると特定した.