佐藤景也 全天球カメラを用いた地震被害構造物の形状把握に関する研究 池田隆明,志賀正崇 近年整備範囲が拡大している3次元都市モデルは,防災・減災を目的とした様々な研究や実務における活用が広がりつつある.3次元都市モデルの構成要素である構造物モデルの生成手法としては,構造物を複数の画角から撮影した画像を用いたSfM-MVS解析により,点群及びメッシュデータを生成する方法が挙げられる.しかし,災害発生直後においては現地での調査時間や活動範囲は大きく制限される.このような限られた条件下においてさらなるモデル品質の良化と処理時間の短縮を図るには,これらに影響を与える因子を事前に評価する必要がある. 本研究では,構造物撮影の効率化を図るため,通常のフレームカメラの代わりに全天球カメラを用いることを提案する.全天球カメラは原理上死角が存在せず,フレームカメラと比べて撮影に要する時間を大幅に短縮できる点で効率的である.一方で,全天球カメラで撮影された画像は周囲360°を一枚の画像に収めるため周縁部の歪みが大きく,SfM-MVS解析により生成される点群の精度に与える影響が十分に検討されていない.また,実環境での精度検証においては,別の計測手法による結果を正解値として扱う必要があるため,真値との比較が実質不可能である.こうした課題を踏まえ本研究では,真値が明らかである仮想空間上に低層住宅が密集する区画を再現したうえで,全天球カメラにより撮影された画像を用いたSfM-MVS解析により構造物の3次元点群を生成する.こうして生成された点群の3次元座標と仮想空間で設定した真値を比較することで,点群の精度に影響を与える因子評価を目的とする. 評価の対象とするパラメータは,カメラの高さ(カメラと撮影対象の位置関係),標定点数,写真間の距離間隔,解像度の4つである.また,検討対象とする地域は,地震時の液状化により低層住宅が沈下及び傾斜した地域を想定している.検討の結果,カメラの高さについては,点群の精度との関係を明らかにすることができなかった.標定点数については,標定点数が多くなるほど点群の精度が良化したが,他のパラメータよりも点群の精度に与える影響は小さいと考えられる.写真間の距離間隔については,距離間隔が短いほど誤差が小さくなる結果とはならず,0.5m,2.0m,1.0mの順に誤差が小さくなる結果となった.写真の解像度については,写真の解像度が高いほど点群の精度が良化した.また,他のパラメータよりも点群の精度に与える影響は大きいと考えられる.