エルウィンオシエル レイナロペス 塩害による電力施設コンクリート構造物の劣化過程の数値シミュレーション 下村 匠 鉄筋コンクリート製のサービストンネルの調査により、コンクリートの剥離、ひび割れ、鉄筋の腐食といった深刻な劣化が確認された。これらの劣化現象は、コンクリート内部に高濃度の塩化物イオンが浸透することで促進されることが分かっている。複数のトンネルで同様の劣化が確認されており、劣化メカニズムの解明が急務となっている。 このため、本研究では、数値シミュレーションを用いて、電力施設における鉄筋コンクリート構造物の劣化メカニズムを解明することを目指す。 本研究の一環として、東京都の豊洲サービストンネル(新豊洲変電所と新京葉変電所を結ぶトンネル)を対象としたケーススタディを実施した。2024年7月の点検では、排水システム付近の下部セクションで顕著な損傷が確認され、大量の水が長期間滞留していたことが判明した。2019年および2024年に採取されたコンクリートサンプルの詳細な分析により、高濃度の塩化物イオンが検出され、長期的な劣化進行が裏付けられた。逆解析手法を用いた数値計算では、トンネルは約1年間、9〜10%のNaCl溶液に相当する塩化物濃度の水に曝露されていたと推定された。これらの浸水現象が単発的なものなのか、繰り返し発生したものなのかを明確にするため、追加の検証が求められる。 数値シミュレーションの結果、毛細管吸引が塩化物イオンの主要な輸送メカニズムであり、コンクリート内部への深い浸透を促進していることが示された。2019年の検査で測定された塩化物濃度分布と一致する結果が得られ、このシミュレーションの精度が確認された。しかし、この濃度は通常の海水の塩分濃度を大きく上回っており、トンネル内の水がどのようにしてこれほど高い塩化物濃度に達したのかが重要な研究課題として残されている。そのため、単一の浸水イベントによるものなのか、あるいは長期間にわたる繰り返しの浸水が影響したのかを解明する必要がある。 今後の研究では、乾燥・湿潤の条件を考慮した塩化物輸送メカニズムを数値モデルに統合し、より高精度な劣化予測を可能にすることが求められる。さらに、長期乾燥過程での塩化物イオンの再分布を適切に考慮することで、より現実的なシミュレーションモデルの構築が可能となる。この改良により、環境変動が塩化物浸透や拡散、鉄筋腐食に及ぼす影響をより深く理解することができるだけでなく、将来的な補修・補強計画の最適化にも貢献できると考えられる。