内藤秀哉 材料劣化が鋼コンクリート複合構造の力学特性に及ぼす影響 下村匠 鋼コンクリート複合構造の接合部に用いられるずれ止めの力学特性は,健全な状態については多くの知見が得られているが,腐食が生じた場合について検討した例は少ない。そこで,本研究では,ずれ止めとして多く用いられている頭付きスタッドを有する接合部を対象とし,スタッド間で腐食ひび割れが連結した場合,連結したひび割れが先行ひび割れとなり早期にコンクリートが割裂するという仮説を立て,これを検証するための実験を行った。 まず,頭付きスタッドの押抜き試験方法(案)を参考に押抜き試験体を3体作成した。実験では,腐食ひび割れがスタッド間で連結することにより,先行ひび割れの役割を果たすことで想定以上の耐力低下や破壊モードの遷移が生じるのではないかという仮説を検証するために,スタッドを2段設け,スタッド間隔は,複合構造標準示方書に示されている最小値である100mm間隔とした。 次に,スタッドに腐食を発生させるために,試験体を3%塩水に浸漬させて電食を行った。腐食の程度は,電食なし(腐食率0%),ひび割れがスタッド間で連結・錆汁の溶出後(7.76%),連結後さらに腐食させひび割れの進展・拡幅が終了後(17.95%)の3段階とした。 電食後,押抜き試験を実施した。力学性能は,腐食させた試験体のうち,腐食率7.76%のものについてはひび割れがコンクリートブロックを貫通していたため,腐食率分減じた計算値を下回る結果となった。腐食率17.95%のものについては,腐食させなかったものよりせん断耐力が低下していたが,ひび割れがコンクリートブロックを貫通していていなかったため,断面減少を考慮した計算値を下回る結果とならなかった。また,計算値はいずれの試験体もスタッドの破断での破壊となるというものであり,腐食率0%のものと,腐食率17.95%のものはスタッドの破断で破壊した。しかし,腐食率7.76%のものについては,コンクリートブロックの割裂によって破壊し,破壊モードの変化が確認できた。以上より,「スタッド間で腐食ひび割れが連結した場合,連結したひび割れが先行ひび割れとなり早期にコンクリートが割裂する」という現象を実験的に確認することができた。 次に,これまでの実験結果を踏まえ,波形鋼板ウェブ橋を例に,スタッドにおける腐食の影響を考慮した複合構造物の維持管理について考察した。最後に,次年度以降の実験計画を示した。