佐藤友希 外部環境統合型のコンクリート内部の物質移動予測モデルの構築 中村文則 コンクリート構造物の塩害は,塩分が砕波によって海上から大気中に発生し,風によって輸送される「外部」での移動と,コンクリート表面に付着し徐々に浸透する「内部」での塩化物イオンの移動によって発生する.この塩化物イオンがコンクリート内部に蓄積すると,鉄筋の腐食,コンクリートのひび割れや剥離,構造物の耐力低下につながる.この塩害の対策として,コンクリート内部の塩化物イオン量を予測することが挙げられる. まず,コンクリートに塩分が付着し内部に浸透する「境界」における移動過程を明らかにするために,表面・表層を対象とした塩分・降雨作用を加えた暴露実験を行った.この実験には直径100mm高さ200mmの円柱供試体を用いた.飛来してきた塩分がどのくらいの範囲で浸透するかが明らかになっていないため,暴露面から20~30mmの範囲を2mm間隔で試料の採取をおこなった.その結果,塩分は暴露面を含む1層目で卓越しており,2層目以降はほぼ一定の値となった.これは,作用回数を増やしても同様の傾向だったため,到達した飛来塩分は短期間では浸透しないことが分かった.この塩分が付着した状態に水分作用を加えると,塩化物イオンは内部に移動した.その範囲は10mmの範囲であり,短期間の降雨などの水分作用が加わると付着した塩分の一部が内部に浸透することが分かった.また,降雨のように表面を流れるような水分作用だった場合は,塩化物イオンの一部が洗い流されることが分かった.これらより,短時間で内部に水分・塩分は浸透し,晴雨によって塩分の移動過程が異なることが明らかになった. 以上より,詳細な境界条件の変化を反映させることで,塩化物イオンの移動をより精度良くできる可能性が示唆された.そこで,既存の外部・内部塩分浸透モデルを統合して,塩化物イオンの移動を予測した.本研究では,外部モデルで到達塩分量までを計算し,観測した降雨作用・温度の変化を詳細に反映した境界を与え,内部で塩化物イオンが浸透するところを計算することで,塩化物イオン濃度を計算した.計算結果は,実際に海岸に暴露しているコンクリートから採取した計測値と比較した.これより,計算値と計測値が近い値を示した.そのため,既往の研究で開発された飛来塩分の解析法・付着塩分の侵入モデル・コンクリート内部の塩分移動解析法を組み合わせると,実構造物における長期的な塩分浸透性状を再現できることを確認できた.