河原 達哉 耐候性鋼橋梁のさび外観評価における深層学習の適用に関する検討 岩崎 英治 鋼橋の防食方法は主に,塗装などの被覆方法と耐食性材料の使用による方法に大別され,後者において,耐候性鋼はその代表的な材料である.普通鋼に,Cu,Ni,Crなどの合金元素を適量添加することで,適切な腐食環境下においては,鋼材表面が密着性の高い保護性のさび状態を形成する.定期点検において,保護性のさびの評価には,しばしば,目視を主体としたさび外観評価が用いられる.しかし,この方法は,点検者による主観を含み,客観性に劣ることから,近年,深層学習を用いたさび外観評価の定量化が進められている.一方で,さび外観評価における深層学習の適用は,画像内の特徴抽出に依拠する識別問題により実用性が評価される中で,再現性の担保と識別性能の向上並びに汎化性能の評価に更なる検討を要する. 本研究では,さび厚に基づくさび状態の評価と対応する画像の組を用いた深層学習により,さび外観評価を試みた.具体的には,学習モデルの選択とハイパーパラメータ(最適化アルゴリズム及び学習率)の最適化を通じて深層学習モデルの構築を行い,学習に用いていないデータによる識別性能の評価を行った.また,深層学習モデルの撮影機器並びに撮影姿勢(回転角及び回転軸)に対する評価を行った. ハイパーパラメータの最適化を通じ,本研究で検討した条件においては,学習モデル,最適化アルゴリズム問わず,学習率=10E-6が最も優れることが分かった.学習における損失は,学習モデルでは,ViT-B/16<VGG16<ResNet50,最適化アルゴリズムでは,Adam<RMSpropとなり,ViT-B/16とAdamが優れていることが分かった.また,構築したモデル(学習モデル:ViT-B/16,最適化アルゴリズム:Adam)に基づく特徴抽出により,さび外観評価が可能であることが示唆された.学習に用いた橋梁における部位及び学習に用いていない橋梁における部位問わず,十分な識別精度を有しており,維持管理上,有用であることが確認された.加えて,撮影画像のRGB強度の調整により,学習時とは異なる撮影機器を用い,ラフに撮影した場合においても,さび外観評価が可能であることが示唆された.回転角の増大に伴い識別性能が低下するが,Z軸の回転を制御することで,回転角が40°程度の範囲内で安定した識別が期待できる.