飯澤 奎斗 中山間地における洪水と土砂の動態解析法の検討 細山田 得三 本研究は,石川県輪島市を流れる塚田川を対象に,中山間地域での洪水と土砂移動の動態を解析する数値モデルを構築し,その有用性を検証するものである.中山間地域は,日本の国土の約7割を占め,農業や集落が広がる重要な地域である一方,地震や豪雨といった災害が複合的に発生しやすい環境でもある.近年,気候変動に伴う豪雨災害や地震による地盤変動が増加しており,これらが引き起こす複合災害への対応が求められている.本研究は,2025年9月に発生した能登半島豪雨災害を事例に取り上げ,塚田川周辺の洪水リスクと地形変化を解析することで,数値モデルの適用可能性を探った.研究では,土砂移動の主要なメカニズムである掃流砂を対象とし,河床のせん断応力が限界を超えた場合に発生する地形変化を数値的に解析した.解析手法には有限差分法を用い,非線形長波方程式を解くことで洪水波や土砂輸送フラックスを計算した.また,国土地理院が公開している10mメッシュのDEM(数値標高モデル)データをQGISで処理し,塚田川流域の詳細な地形情報を取得してモデルに組み込んだ.1次元解析では,直線水路における土砂移動と地形変化を計算し,基礎的な挙動を確認した.一方,2次元解析では塚田川の実地形を再現し,蛇行部や下流域の水面変動や地形変化を可視化した.これにより,河川の蛇行部で曲線外側が侵食,内側が堆積する傾向が明確に示された.また,洪水による水面変動は特に下流側で顕著であり,これらのシミュレーション結果は,2025年の能登半島豪雨災害時に観測された被害状況と一致した.ただし,シミュレーション期間が2日間と短かったため,地形変化量は非常に小さく,定量的評価には限界があることも分かった.その一方で,地形変化の発生箇所を特定することには成功しており,防災対策の観点からは実用的な意義を持つと考えられる. 本研究は,土砂移動モデルを用いた災害リスク評価において,定性的評価の有効性を示した点に意義がある.また,地形変化が生じる箇所を事前に特定することで,ハザードマップの改善や河川管理の効率化に寄与する可能性がある.今後は,より長期間のシミュレーションを行い,高解像度の地形データを用いることで,さらに詳細で正確な解析が可能となる.また,堤防や建造物の影響を考慮したモデルの拡張も,現実的なリスク評価を進める上で重要である.