遠藤拓郎 カンボジア王国におけるメコン川の流動特性及び浸食傾向の把握 犬飼直之  メコン川は,チベット高原に発し,ベトナム南部で南シナ海に流れ込む国際河川である.下流域国では流域面積の割合が大きく,カンボジアでは85%に達する.カンボジア内のメコン川は雨季と乾季の流量差が非常に顕著なため,河岸浸食による斜面崩壊が起こり,問題を引き起こしている.また,斜面崩壊現場の付近では,川砂の無秩序な浚渫が頻繁に行われており,斜面崩壊増加の原因の一つとして問題視されている.これらの対策には現在の流況を把握し,危険個所の予測を行うことが重要である.  本研究では,カンボジア内のメコン川にて,河岸浸食の危険性の高い場所の特定及び対策案の検討と,土砂が堆積しやすい場所および計画的な浚渫案の検討を行うことを目的して,現地にてADCPを用いて計測した流速及び,水深データと数値シミュレーションによる流況解析から,流域の地形と流れの状態,浸食・堆積傾向の把握した.  測量調査で得られた,高度,流速,勾配のデータから斜面崩壊が発生している箇所では,河岸付近の水深,流速が大きく,斜面勾配が安息角を超えているという共通点があることが判明した.この情報から,今後河岸浸食や斜面崩壊が起こる危険性の高い箇所を抽出し,流況解析を行った.  解析には,iRICソフトウェアを用いた.流況解析の前に解析結果の妥当性を検証するために,現地調査時のメコン川の実測流量と同等の流量をモデルに与えて解析を行い,実測流速と計算流速の比較を行った.解析の結果,ほとんどの河川横断面において,計算流速が実測流速を良く再現できており,高い再現性が得られた.  流況解析では,実際の年間最大,最小流量を含めた複数ケースの流量を与え解析を行い,抽出した河岸浸食や斜面崩壊が起こる危険性の高い箇所付近の流況を把握した.その結果,いずれもの箇所も,年間を通して河岸付近の流速が浸食傾向となるほど大きくなることが判明した.このような箇所の斜面崩壊の短期的な対策として,水深の大きい位置までコンクリートブロック等の構造物で斜面を護岸することが有効であると考えられる.また,解析結果から河川の蛇行部分の内側や,中州により分流している箇所が流速が小さく,浚渫箇所に適していると考えられる.  今後の課題として,流量の変化を想定した長期間の解析を行うことで,より具体的に流況の把握し,斜面崩壊の中長期的な対策案を検討と,浚渫箇所の具体的な範囲と土量の検討が必要であると考えられる.