五十嵐 大輝 機械学習を用いた斜面危険度評価手法の高度化 大塚 悟  斜面の広域危険度分析は,災害因子に対して個別の評価対象地点の統計的評価やAI評価が実施されるが,マスとしての移動現象である斜面崩壊の実現象と大きく乖離する問題点を有する.また,近年汎用化された機械学習を用いた斜面危険度評価は,多様なデータを活用するために学習範囲と適用範囲に制限の生じる課題があるが,応用に関する知見が十分に整備されていない問題がある.本研究は斜面の広域危険度評価の高度化を目的に,環境防災研究室で開発してきた機械学習と画像認識分析からなる2段階の解析手法を用いて,適用範囲の拡大に向けたAI評価モデルの簡素化と高精度化を目指した検討を行った. 第1段階の地形情報の機械学習では,対象地点の地形の他に近傍の地形を移動平均により考慮した.平均区間を変えると異なるスケールの地形情報を考慮する利点がある.地形量・スケール情報を操作した多様な分析を実施し,それぞれの予測性能の差異について検証した.分析では,重要度が高く,他の因子との相関に注意して高い精度の得られる解析手法を明らかにした.手法では移動平均による2種のスケール情報の使用のほか,新たな因子として地下開度,地上開度の指標を用いる有効性を示した. 第2段階の画像認識AIによる崩壊危険ブロックの抽出解析では,第1段階で得られた危険度評価図と複数の地形量を組み合わせ,異なる入力画像に対する解析を実施し,生成形状や性能を評価した.崩壊危険ブロックの抽出に成功したが,地形情報の選択により崩壊ブロックの形状に影響が見られた.小規模崩壊は一部の見逃しや,断片的な再現のほか,大規模な崩壊では拡大した形状に判別される事例が生じた.  上述の解析手法を用いて,学習した地域と斜面崩壊の誘因,素因が異なる地域での有効性及び汎用性を包括的に分析した.解析結果より,斜面危険度評価を効率的に実施する2つの手法を提案した.1つは予測精度を高める「メリハリモデル」であり,他方は崩壊箇所の取りこぼしを抑制する「安全評価モデル」である.実務への適用を目的に,崩壊事例の学習領域の変化や,学習データ数の増減に伴うモデル性能を検証した.極端なサンプル不足の状態では崩壊事象を見落とすリスクが大きいが,学習データを潤沢に投入すると,真陽性率と真陰性率のトレードオフはあるものの,識別精度および総合的な識別能力がともに向上することが確認できた.しかし,提案モデルは予測性能の限界に近いため,更なる地形指標,降雨量・内部地下水を反映した水文指標の追加を行い,危険度評価の性能向上に向けた改善が必要である.