氏名:井石涼太 論文代目:デマンド交通における乗客へのサービスレベルと車両の稼働時間の関係 指導教員名:佐野可寸志 概要:近年、路線バスの利用者減少やバス事業者の撤退、コミュニティバスの維持困難などの問題に伴い、デマンド交通の導入が進んでいる。デマンド交通は、予約に応じて運行される乗合公共交通であり、空気バスや公共交通の空白地を解消する役割を担っている。柏崎市では、AI配車システムを導入したデマンド交通「あいくる」が運行されており、運行区域内の人口カバー率は80%、381か所の乗降ポイントを有している。しかし、現状では「いくる」の運行ごとの平均乗車人数は1.5人程度にとどまり、運転手の拘束時間が長くなるなどの問題が発生している。  この問題を改善するためには、運転手の拘束時間に対する稼働時間の割合を高めるために、乗合率を向上させ、運行回数を減らすことが求められる。そのためには、利用者に対してサービスレベルの低下(特に待ち時間の長時間化)を許容してもらい、これまで乗合していなかった出発地-到着地(OD)間の移動を乗合にすることが重要である。本研究は、乗客のサービスレベルと車両の稼働時間の関係を明確にし、効率的な運行を実現するための方法を探ることを目的としている。  本研究では、評価関数としてデマンド交通の稼働時間(Td)とサービスレベルの低下(Ts)を設定した。具体的には、iとi+1が乗合する際の所要時間や乗客なしでの所要時間を考慮し、運行時間やサービスレベルの低下を計算する式を導入した。評価関数に基づいて、乗車中時間の伸びや乗降車時刻のずれがサービスレベルに与える影響を定量化し、重みづけ(アンケート結果に基づく)を反映させることで、サービスの質と運行効率のバランスを取る。  分析に用いたデータは、柏崎市から提供された「あいくる」の運行データで、乗車時刻、降車時刻、出発地、到着地、緯度経度などが含まれている。分析は2024年7月を対象に行われ、乗客の待ち時間の許容時間を10分、20分、30分、40分、50分、60分の6パターンに分類して分析を実施した。時間と距離を一致させるために、平均時速16km/hを用いて許容距離を計算し、走行距離は直線距離の1.268倍として算出された。  乗合するODの選定にあたっては、許容時間を距離に換算し、その距離が実際の距離より大きいODを選定する方法を採用した。さらに、アンケートを実施し、乗車中の時間延長や乗降車時刻のずれに対する利用者の満足度の低下を調査した。このアンケートはタクシー運転手を通じて配布され、2025年1月23日から1月31日に実施された。設問は、サービスレベルの低下に対する許容できる値下げ額を尋ねるものであった。  結果として、30分のサービスレベル低下に伴う値下げ希望額が算出され、許容時間と利益の関係を示すグラフが作成された。図からは、サービスレベルの低下に対する満足度が、乗車中時間の伸びよりも乗降車時刻のずれに対して大きく低下することがわかった。また、許容時間が30分のときに利益が最大化されることが確認され、最適な許容時間は30分であることが示された。  今後の課題としては、アンケート調査をさらに詳細に行い、より優位な重みづけを決定することが挙げられる。また、乗合プログラムの実行日を複数回にわたって実施し、データをより充実させる必要がある。さらに、条件変更に伴う比較分析も行うべきであり、アンケート調査においては、対面で相手の理解度を確認しながら進めることが求められる。