澤本 竜輝 水害避難に関わる「リードタイム」の概念と運用に関する研究 佐野 可寸志 近年の気候変動による豪雨の頻発により,日本全国で水害が増加している.水害に対する避難計画の策定や避難情報の発信において,住民が避難に必要とする時間を考慮することは非常に重要である.これらの時間は「リードタイム」と総称され,所与の時間として事前に設定されることが多い.また,「リードタイム」という用語には統一された定義がない.本研究では防災や避難等に関わる「リードタイム」がどのような定義・目的で用いられているかを整理した.また「リードタイム」の多義性による問題点を明らかにするとともに,適切な用語の使用方法を検討した.その結果,防災や避難に関するリードタイムは避難等に要する時間,予測能力の指標,災害(対象となる現象)発生までの猶予等,様々な定義・目的で用いられていることが明らかとなった.避難に関する情報を発信する内閣府,国土交通省,気象庁の間でも定義が異なっており,避難指示等を発信する自治体や避難を行う地域住民等に意味が正しく伝わらない可能性があるため,「リードタイム」という用語を明確に使い分ける方法を提案した. さらに,避難計画上,「避難等に要する時間」が何時間程度で設定されているかを明らかにするため,指定河川洪水予報における氾濫危険水位・避難判断水位の設定に用いる「リードタイム」について調査を行った.河川事務所へのヒアリング調査の結果,指定河川洪水予報におけるリードタイムは「避難等に必要な時間」だけでなく,情報の信頼性や避難指示の発令頻度等を考慮して総合的な判断で設定されていることが明らかになった. また,全国の河川管理者への調査を行った結果,氾濫危険水位及び避難判断水位のリードタイムの統計値が得られた.また,水位上昇速度が大きいほどリードタイムが短い傾向がみられた.指定河川洪水予報におけるリードタイムの実態として,「避難等に要する時間」と定義されているが,実態としては「現実的に設定可能な災害発生までの猶予」となっている場合がある.そのためリードタイムが短い河川においては,リードタイムを公開して危険性を周知することや,氾濫が発生する時刻を避難情報に含める等,「避難等に必要な時間」を短くできるような情報提供が必要だと考える.