佐藤 華苗子 社会的ジレンマを踏まえた豪雪時の自動車通勤抑制施策に関する研究 佐野 可寸志 近年,豪雪に伴う大規模車両滞留発生リスクが高まっており,人命にかかわるリスクを伴う被害を防ぐためには交通量の抑制が重要である.しかし,既往施策である「不要不急の外出自粛」では十分な効果が得られていないのが現状である.本研究では,トリップ目的ごとの具体的な施策が必要であると考え,特に通勤による自動車利用の抑制に着目した.通勤抑制対策として最も効果的なのは自宅待機(休業)であるが,企業にとって業務遂行が困難となるため,出社の継続か出社を取り止めるかの選択を迫られる.本研究では,豪雪時の通勤行動の実態を明らかにし,社会的ジレンマの解決策に基づく施策を提案し,その実現可能性を検討した. 2022年12月豪雪時の通勤行動を分析した結果,大雪警報が発令されている状況下でも90%以上の就業者が出社していたことが明らかになった.出社について個人属性や就業属性による明確な差は見られず,出社を完全に取り止めるのではなく,出社時間帯を変更して出社を試みる傾向があることが明らかになった. また、出社判断に影響を与える要因を分析した結果,勤め先から「出社については自己判断するよう連絡がある」場合,出社を控える傾向が強まることが示唆された.一方,通勤時間が短い場合や自動車通勤を行っている場合には,出社する傾向が強いことが確認された.これらの結果から,豪雪時の出社行動は,個人属性よりも企業の対応や通勤手段の影響を受けやすく,また,個人の災害意識も関与していると考えられる. さらに,豪雪時の自動車通勤抑制の可能性を分析した結果,半数以上の事業所は自動車通勤の抑制に消極的であった.ただし,業務継続計画(BCP)を策定している事業所では,自動車通勤抑制の意向が高い傾向を示した.また,提案施策および既往施策について実現可能性を検討した結果,テレワーク実施等が実現可能性を高めることが示唆された.既往施策および提案施策間における効果の差については,強制力のある通行止めや,企業にとってメリットのある支援金の給付において有意な差があることが明らかになった. 本研究の結果から,自動車通勤を抑制するためには,企業の対応や政策の強化が不可欠であることが示唆された.特に,テレワークの導入や企業の明確な方針が,通勤行動に大きな影響を与えることが分かった.また,過去の豪雪時における出社取り止めがある企業や個人ほど,抑制策の必要性を認識しやすいことも確認された。豪雪時の自動車通勤抑制のためには,BCPの策定やテレワークの推進とともに,企業・行政・個人が連携して適切な対応を講じることが求められる.