武田 大和 多種の気象レーダーデータを用いた降雪時における地上降水量推定に関する研究 熊倉 俊郎 雪片などの固体降水粒子は落下速度が遅く風によって移流するため,気象レーダーの観測面の直下には落下しない.固体降水粒子の移流を考慮した3次元風速場を利用した後方流跡線解析を用いた既往研究では,長岡技術科学大学内に設置した気象レーダー(以後,技大レーダー)が使用されてきたが,技大レーダーの観測範囲外で行えない点が課題であった.そのため本研究は2022年1月から2月の期間を対象に,全国をカバーする気象庁全国合成レーダーデータ(以後,気象庁レーダー)を用いて後方流跡線解析を行った際の地上降水量の推定可能性を検討した.解析対象地点はAMeDAS長岡観測所で,AMeDASの気温が0度以下の事例を対象とした.技大レーダーの5段階の仰角のデータと気象庁非静力学モデル(以後,NHM)で予測計算された水平風速,1.0m/sの落下速度を用いた後方流跡線解析を行い,鉛直方向の降水強度の分布パターンを分析した.さらに後方流跡線解析で気象庁レーダーの降水強度も取得し,技大レーダーによる降水強度分布をもとに結果を評価した.解析で技大レーダーから得られた降水強度を解析降水強度(技大),気象庁レーダーから得られた降水強度を解析降水強度(気象庁)とした.各仰角の解析降水強度(技大)を時系列で評価し,2分間隔に8種類の分布パターンに分類した.その結果,降水粒子の移流が正確に推定され,気象庁レーダーによる降水量推定も高精度に行えると考えられる「垂直一様分布」は,降水がある事例の約7割であった.また,1時間降水量に直したAMeDASと解析降水量(気象庁),AMeDASと仰角3度の解析降水量(技大)の関係についてそれぞれ単回帰分析を行った結果,AMeDASと解析降水量(気象庁)は相関係数が0.799,回帰係数が0.885,RMSEが0.509であったのに対して,AMeDASと解析降水量(技大)は相関係数が0.881,回帰係数が1.036,RMSEが0.427であった.仰角3度の解析降水量(技大)の方が相関係数は大きいものの,解析降水量(気象庁)も地上降水量の推定は可能と考えられ,解析降水量(気象庁)は約30分前に地上に落下する固体降水が予測可能という利点もあった.また,1時間を通して分布パターンが垂直一様分布であった事例に限定して同様に単回帰分析を行った結果,AMeDASと解析降水量(気象庁)は相関係数が0.833,回帰係数が1.200,RMSEが0.742,AMeDASと解析降水量(技大)は相関係数が0.901,回帰係数が1.288,RMSEが0.658となり,いずれも垂直一様分布に限定しない場合よりも相関係数が大きくなった.回帰係数が大きいのはAMeDASの降水量の過小評価,RMSEが大きいのは事例数が少なくなった影響と見られ,垂直一様分布の事例に限定すると解析降水量(気象庁)の精度が向上することが確認された.