ツォグトバヤル　ニャムトヤ

ADXL355による地震時損傷検知を目的とした振動・傾斜計測に関する検討

志賀正崇，池田隆明

本研究は，地震が発生した際に損傷したインフラ構造物の状態を確認するための現地調査が困難な状況において，遠隔で構造物のヘルスモニタリングが可能なシステムの開発に焦点を当てた．
まず研究背景では，現地に到達できない，または安全上のリスクがある場合でも，MEMS（Micro-Electro-Mechanical System）加速度センサーを使用したヘルスモニタリングが可能である点，従来の高価な振動計に代わり，小型で安価なMEMS加速度センサーの利用が進んでいる点，MEMS加速度センサーの計測精度やシステムの適切な管理・運用に関する課題が存在し，それに対する検討が不足している点を指摘した．このため，本研究では，MEMS加速度センサーの計測精度に焦点を当て，加速度センサーADXL355の振動・傾斜特性を検討を行った．
実験は2段階にわけて行なった．まず，小型振動台を使用し，ADXL355と既存の加速度計ASW-5Aと速度計VSE-15Dを比較し，様々な振動条件での計測を行った．研究手法では，実験に使用する機材やセンサー，振動台の設定，実験条件の設定，およびデータの整理と解析手順を詳細に記述した．結果と考察では，加振ケースや計測パターンにおいて，異なる振動条件やパターンでの実験を実施し，その結果を比較・分析した．最終的にADXL355とマイコンを別の基盤に分離する改良を行ったパターンを用いることによって，ある程度の正確な計測が可能となることがわかった．
また，加速度計による傾斜度評価を目的として，分度器を使用して振動台に取り付けられたMEMS加速度センサーの角度を設定して実験を行った．その結果，最終的に判別可能な傾斜角までを議論することができた．
このように，ADXL355を用いた加速度計測あるいは傾斜計測は，ある程度の正確な計測が可能である一方，実運用上に関してはモジュール単体の精度向上や実環境下での評価など課題が多いことが判明した．