大矢永遠 地盤特性に着目した新潟県中越地震における武道窪地区の地震被害の解明 池田隆明 2004年10月23日に発生した新潟県中越地震では最大震度7を観測し,多くの観測点で大きな被害をもたらし,震度7を観測した新潟県旧川口町でも多くの被害が発生した.しかし,武道窪地区での家屋被害の状況は一集落の1km2未満という狭い範囲内であるにも関わらずエリアによって異なることが報告され,地盤特性が地震被害に影響を与えている可能性が指摘された.既往研究では当該地域における家屋の被害状況の詳細分析が行われ,家屋の被害情報のアップデートが行われた.また,常時微動探査を用いた地盤特性の評価では,当該地域における複数箇所の地盤の卓越振動数を算出し,被害大の領域では2.5Hz以下が卓越し.被害小の領域では3.0Hz以上が卓越していることが確認され,表層地盤の卓越周期と地震被害の分布に相関があることを示唆した.しかしながら,被害大と小の大まかな相関は示されたものの,中程度の被害と卓越振動数との関係については不明瞭な結果となった.高田は,浅間の課題であった地盤特性の連続的評価を目的に,連続的な地盤特性を把握可能な表面波探査手法を用いて地盤構造を推定し,その結果を用いて地盤構造と被害分布の関係性評価を行った.課題として,表面波探査の解析結果の向上と被害大と被害中の明瞭な差異を見出せなかったこと,定性的な評価であったことが挙げられた. 表面波探査は計測データと解析方法によって得られる地盤構造が大きく変化するため,本研究では分散曲線の高次モードの除去と地盤の連続性の2点を考慮した再解析を行った.その後,一般的にはその他の地盤データを用いて表面波探査結果の補正が行われる.しかし,当該地域ではボーリングを含めた地盤データがないため,本研究では表面波探査の測線上に20m間隔で常時微動探査を実施し,その結果を用いて表面波探査の補正を行った.常時微動探査で得られた観測H/Vスペクトルとその地点の表面波探査から得られた地盤構造から理論計算により求めた理論H/Vスペクトルを比較し,H/Vスペクトルの形状が概ね一致する地盤に対して表面波探査の地盤構造のS波速度を変更し,理論H/Vスペクトルの卓越振動数を観測H/Vスペクトルの10%以内に合わせることで補正を行った.得られた補正後の地盤構造を用いてsuperFLUSHによる2次元地震応答解析を行った. 以上のことから,被害大・中エリアではS波速度の低い層が厚く堆積しており,被害小のエリアではS波速度の高い硬質な層が厚く堆積していることがわかった.この表層地盤のS波速度の低い層が地震動を大きく増幅し,S波速度構造の違いにより地表面の地震動に大きな差を生んだことがわかった.よって,表層地盤の軟弱な層の厚さの違いにより木造家屋の被害に大きな差が生まれたと考えられる.