小川 晴希 実構造物の外部・内部の総合データの収集と塩害劣化過程の解明 中村 文則 実構造物の塩害劣化過程を解明するためには,構造物の外観損傷状況,内部の劣化状況およびそれらの要因となる外部環境作用のそれぞれの値を把握し,関連性を知ることが重要である。しかし,各機関で塩害を受けたPC橋梁の調査が多く実施されてきたが,同一の橋梁を対象に,外部環境から表面および内部の劣化情報を包括的に調査した事例はなく,実環境における塩害劣化過程を正確に把握しきれていないのが現状である。本研究では,日本海沿岸部の厳しい塩害環境下で約50年供用され撤去に至ったPC橋梁の上部工を対象に①外観損傷,②鋼材腐食,③浸透塩分,④到達塩分の総合的なデータの収集を行った。さらに,縮尺模型を用いた風洞実験を実施し,実環境における塩害劣化過程を解明した。 橋桁表面および内部の劣化調査の結果,①外観損傷,②鋼材腐食,③浸透塩分の劣化状況をそれぞれ明らかにした。①外観損傷では,下フランジの海側出角部に配筋された軸方向鉄筋の体積膨張を起因とするコンクリート損傷が数多く確認され,下フランジの海側面および下向面(海側)の劣化が特に顕著であった。②鋼材腐食では,下フランジの海側の鋼材の腐食が著しく,下フランジの山側で鋼材の腐食は確認されなかった。しかしながら,軸方向鉄筋の腐食が顕著であり,PC鋼材自体の腐食はほとんど確認されなかった。③浸透塩分では,下フランジの海側面に特に多くの塩分が浸透しており,一部の桁では下フランジの下向面(海側)にも塩分が多く浸透していることが確認された。また,橋桁全体の劣化分布に着目すると,いずれの劣化過程においても海側に位置する桁では劣化がほとんど進行しておらず,橋桁中央から山側に位置する桁の劣化が著しい傾向があった。 さらに,模型実験を実施することで橋桁各部位への飛来塩分到達分布を明らかにした。その結果,④到達塩分では,①から③の劣化分布と同様,橋桁中央から山側に位置する桁の下フランジ海側面に多くの塩分が到達することが示された。このことから,飛来塩分の到達分布が実構造物の劣化分布に強く影響を及ぼしていることが判明した。 結論として,外部から内部の総合データから,実構造物における塩害劣化過程にはそれぞれ関連性があることが確認された。一方で,PC鋼材自体の腐食はほとんど確認されず,外観に表れた損傷は,外側に配筋された軸方向鉄筋の腐食を起因として発生していることが判明した。さらに青海川橋では,飛来塩分が橋桁中央から山側に位置する桁に多く作用するため,その部位で劣化が進行していた。