大谷章太 コンクリートの乾燥収縮が複合構造の接合部における応力伝達特性に及ぼす影響 下村匠 鋼コンクリート複合構造は作用に適した特性の材料を用いることで単独では発揮することのできない優れた性能を発揮する合理的な構造形式である。なかでも,2種類以上の構造材料によって構成され,一体として挙動するとみなせる部材で作られた構造形態のことを合成構造と称している。部材に用いられる材料の特性,接合部の静的応答に対する知見は充実しており,安全性を確保した設計を行うことができている。一方,時間依存性挙動に対する知見は少なく,実橋梁で実測値と算定値の乖離も報告されている。近年では,コンクリートの乾燥収縮およびプレストレスによる持続応力に起因する部材間のずれ挙動が存在することも明らかになりつつあり,橋梁のたわみ挙動を増加させる要因として懸念されている。よって本論文では,ずれ止めに頭付きスタッドを用いた複合構造を対象に,コンクリートの乾燥収縮が接合部の時間依存性変形及び応力伝達挙動に与える影響について検討した。試験体は収縮の促進,収縮をスタッドのみで拘束等の条件から4段1本配置とし,一般的な試験体よりコンクリートの体積表面積比を増加させている。実験ケースは載荷実験前の収縮の有無,静的載荷,持続載荷の組み合わせとなっており,持続載荷力は収縮の導入しない試験体の静的耐力比20%および40%で実施した。 載荷前の収縮挙動はスタッドに拘束されるため小さい値を示すと考えていたが,予想と反して自由収縮用の試験体と同程度の値を示す結果となった。これは,拘束によって発生する引張力より,スタッド近傍で生じる局所的な圧縮力の時間依存性変形が卓越したためであると考えている。実際に静的試験の結果より,載荷前の収縮は構造物の耐力を増加させるがずれ剛性は低下する可能性が示唆された。また,載荷前の収縮と持続載荷の複合的な影響を受けた場合,耐力が減少する結果を示した。よって収縮の影響は接合部のずれ剛性を低下させ変形させやすくすることが示唆された。次に持続試験の結果からは,乾燥条件の有無によるずれ変位挙動の変化が確認された。時間依存性成分において非乾燥条件下の応答は荷重レベルと概ね線形関係があることも確認できた。対して乾燥条件下におけるずれ変位の測定値は,荷重レベルを上げた場合,より時間依存性挙動が増加する結果となった。要因としては,コンクリートの乾燥収縮により,載荷前からスタッド近傍に局所的な応力の影響であると考える。