冨永佑輔 下フランジに腐食減肉の生じた鋼I桁の腐食部応力の簡易評価法に関する研究 岩崎英治 日本において社会基盤構造物の老朽化が問題視されている.橋梁分野においても1950年以降に多く建設されており,長期間供用による損傷事例が多く報告されている.鋼 I 桁橋においても損傷事例が増加しており,その原因の多くは腐食となっている.腐食の多くは支承部のような構造の複雑な部分であるが,桁の中央部分である支間部にも腐食を生じた事例が報告されている.支間部は腐食の原因となる塩分や水分がたまりにくく,腐食の発生する割合は少ないものの,桁橋の主たる抵抗機構である曲げ強度に大きく影響を及ぼすことから橋梁システムとしての耐荷性能に与える影響は大きく,無視できない損傷のひとつである. そこで,本研究は支間部の下フランジに腐食減肉を生じた場合の応力状態を簡易に評価する方法を検討した.支間部に腐食が発生した場合の腐食部応力を簡易的に求める代表的な方法として,力のつり合い条件を用いる方法が考えられるが,この方法は健全部と腐食境界付近の応力の乱れを考慮することができず,一様な腐食が十分な長さにわたって生じている場合には力のつり合い条件式により腐食部応力を精度よく求められるが,腐食部の長さが短い場合では,腐食部と健全部の境界部近傍での応力分布の乱れにより誤差が生じる.また,有限要素解析では専用のソフトが必要であることに加えて,モデルの作成や解析に時間がかかるといった問題点がある.そこで,力のつり合い式で得られる腐食部応力を補正する方法を提案した.このとき,実際に道路橋示方書に基づき設計された桁の諸元を用いた. 解析結果から,合成桁・非合成桁のそれぞれにおいて,下フランジとウェブの断面積比を代入することで補正係数を得ることのできる式を導出した.この補正係数は力のつり合い式で得られる腐食部応力と掛け合わせることで腐食長さが変化した場合に補正することが可能である.有限要素解析結果と補正値の比較を行い,補正係数の推定精度の検討を行った.その結果,腐食率が大きくなるにつれて,腐食長さが短くなるにつれて推定精度は下がるが,ほとんどの場合において補正値と有限要素解析値の誤差が6%以内となる結果となった.そのため,実橋梁において使用が考えられる範囲においては問題ない精度で推定できることが分かった.