池田一喜 矩形断面鋼部材のCFRP補強に関する研究. 宮下 剛  阪神・淡路大震災を受け,道路橋示方書が改定された.1995年以前に施工された鋼トラス橋では,桁端部に近い下弦材などは,最小板厚断面で設計されていたことから耐荷力不足と判定され,耐震補強が必要である.主流な補強工法である当て板工法は,死荷重の増加,母材への削孔といった懸念事項がある.これ対してCFRP接着工法は,軽量で死荷重の増加が少なく,接着による施工が可能で母材に削孔を必要としないなど,多くの利点を有する.このCFRP接着工法の耐震補強への適用性検討を目的とし,過年度ではH形断面部材を対象に研究が行われた.一方,本研究では矩形断面を対象とし,CFRP接着工法の補強効果の検討を目的に,短柱供試体の圧縮載荷実験,長柱供試体の圧縮載実験および交番載荷実験を行う.  短柱供試体の断面寸法は,耐震補強が施された実橋の矩形断面部材の1/2程度とし,長柱供試体は細長比を確保するために1/3程度とした.短柱供試体は全体座屈を考慮しないため,細長比パラメータλが0.2以下になるように設計し,長柱供試体は試験機容量を考慮して,λが0.85程度となるように設計した.CFRP補強量は積層する炭素繊維シートの繊維方向や積層枚数,幅厚比パラメータに基づいて決定した.そして,実験から得られた最大荷重,荷重-ひずみ関係,荷重-変位関係より,CFRP補強効果について検討した.  実験結果から,繊維方向が載荷軸方向と一致するシート(以下,鉛直シート)と繊維方向が載荷軸の直角方向と一致するシート(以下,水平シート)を同数とするケースが,圧縮耐荷力について最大の補強効果を示した.また,水平シートには応力低減の効果はないものの,面外変形に対して剛性を発揮することが確認された.これは,水平シートにより,補強面の面外曲げ剛性が向上したためと推察される. 鉛直シートと水平シートが同数となるケースでは,既往の耐荷力式で評価した耐荷力は安全側の評価となり,積公式からなる連成座屈強度式を用いた評価も安全側の評価となった.この結果より,CFRP補強後の断面を考慮しても,既往の耐荷力式による耐荷力評価の可能性が示された.さらに,交番載荷実験では,圧縮載荷時にCFRPが部分的に損傷を生じた場合でも,引張荷重に対する補強効果を示すとともに,CFRP接着により,累積エネルギー吸収量が増加することが確認された.