氏名:金子恭也 論文題目:海底地盤変形が誘起する初期津波波形の生成と伝播 指導教員:細山田得三 津波の数値解析は,非線形長波方程式が適用される.現行モデルでは,非線形長波方程式において,海底地盤変形と全く同じ形状の水面が瞬間的に形成されるη=zbの近似した式で計算する.一方で,海底地盤の変形や水面形状が瞬間的に形成されることは考えにくい.そのため,近似する前の非線形長波方程式を用いた計算結果と比較する.従来モデルを静的解析として,近似前の式を動的解析とする.解析モデルとして,平面モデルと斜面モデルを用いた.また,地盤の変形形状の違いによる津波への影響を調べるため,変形形状は隆起沈降それぞれ5つのパターンで計算を行った. 水平モデルでは,静的解析と動的解析による津波のシミュレーション結果を比較すると初期水位に関しては,静的解析では地盤変動量がそのまま反映されるので1mであるが,動的解析では,変形形状によって差がみられた.特に不均一な変形の場合,全体として発生する初期波形は小さくなることがわかる.これは,与えられる変形速度が一定であるため,変形量が小さい場所では早く変形が終了し,その後伝播のフェーズに移行するためである.伝播過程については,地盤変動が終了後から120秒後の波形は,静的解析の方が動的解析に比べて水面勾配は大きくなる.また,伝播する際の水位に関しては,変形形状によっては40%程度差が生じており,動的解析の方が伝播水位は低くなる.地盤変動開始時間を基準とすると,到達時間は静的解析の方が動的解析に比べて早く到達する.以上のことから,静的解析は動的解析に比べて,初期水位,伝播過程における水位や到達時間を過大評価している可能性がある. 斜面モデルを用いた数値計算に基づき,変形形状が遡上に及ぼす影響に焦点を当てた.遡上高に関して,一様隆起や一様沈降が最大値であり,半楕円隆起と曲線隆起では解析方法の違いで3mほどの差が観察された.到達時間については,静的解析が動的解析よりも20~30秒早く最大遡上距離に到達する傾向が見られた.変形形状の異なる条件下での動的解析と静的解析では,最大遡上到達時間に大きな差が生じ,半楕円隆起では34秒もの差が確認された.最後に,到達距離と遡上高について比較した結果,静的解析が動的解析に比べて大きな値を示し,その差は変形形状に依存しており,半楕円隆起が最も顕著な違いを示した. 以上より,静的解析は初期波形,伝播過程,遡上時すべてにおいて動的解析よりも大きな値をとることがわかった.動的解析の方が,適用範囲の広さで有利である.