山之内基記 海岸を遡上する波の打上高評価法の問題点と改良 細山田得三 海岸浸食は昭和30~40年頃から全国的に激しくなったとされており,全国の砂浜は明治から昭和の70年間で5,093ha,昭和から平成の15年間で2,395haが失われた.現在,海岸浸食問題に対する意識が高まり,対策が行われているが,約4,800kmに及ぶ砂浜の長大さから,財政的な制約により対策が行えない箇所も多くあり,今後も減少することが懸念される.波のエネルギーを抑える砂浜が減少することで,背後域の住宅への浸水被害の拡大や道路施設への被害による通行障害などの危険性が高まることから,砂浜を維持管理することは,極めて重要である. 海岸で波が汀線を越えて陸上を遡上する際の汀線からの鉛直高さを打上高という.背後域の安全性や必要となる浜幅は,打上高を用いて検討する.したがって打上高を定量的に評価し,把握することは必要不可欠である.砂浜を遡上する波の打上高評価方法として,改良仮想勾配法を用いることが主流となっているが,適用範囲や精度に懸念がある.また,既往研究で改良仮想勾配を用いた打上高算定式がいくつか提案されているが,いずれも提体を対象としており,砂浜の打上高に適用可能か不明である.さらに,打上高評価方法では,どの地点を代表打上高とするか定まっていない問題点もある.そこで,本研究では,2014年12月の爆弾低気圧によって浸食被害が生じた高さを代表打上高と定義し,砂浜上の波の打上高を推定する数値計算手法として,研究と実務分野で多くの事例があるCADMAS-SURF/2Dを使用し,海底勾配や海象条件による打上高の変化について確認した.そして,改良仮想勾配法や既往研究で提案された打上高算定式の結果と比較し,砂浜の打上高予測に適用可能か検証した.さらに、適用範囲の拡大と精度向上を図るため、新たな砂浜の打上高評価方法について検討を行った. その結果,改良仮想勾配を用いる打上高算定式は砂浜の打上高評価に整合性が欠けることが示唆された.そこで,砂浜を対象とした新たな打上高算定式をCADMAS-SURF/2Dの計算結果から提案した.提案した打上高算定式は現地観測と比較するとやや過大評価するが,打上高は空間的にばらつきが生じる現象であるため,やや過大評価する方が理想的だと考えられる.また,適用範囲は海底勾配1/10~1/50であり,これまで既往研究で提案された算定式よりも広い範囲に適用可能である.