田邉修斗 深層学習による画像認識を用いた低波浪時の離岸流発生場所把握のための研究 犬飼直之 准教授 毎年,海辺での溺水事故が発生しているがその原因の一つとして離岸流がある.日本ライフセービング協会によると,海水浴場における溺水事故の約50%が離岸流に起因している.離岸流は,海岸付近での波浪と地形の作用で発生する沖方向への強い流れであるが,一般には発生場所を把握するのは困難であり,海岸での監視者の減少とあわせて事故発生数減少に至らない原因となっている.これに対応するために,Dumitriuらは『A Novel Benchmark and YOLOv8 Baseline Results』で離岸流のインスタンスセグメンテーション,石川らは『特徴の異なる離岸流を検知可能なAIモデルの構築』でオープンエリアの離岸流と突堤付近の離岸流を検知可能なモデルの構築に取り組むなど,近年ではAIによる離岸流の発生状況の判別手法が開発されており実用化されつつあるが,他既往成果例では,砕波現象が小さい低波高時での判別は困難である.しかし本研究グループの既往成果より,低波高時の海水浴中の事故は全体の半数で発生していることから,低波高時の判別を可能にさせる必要がある. そこで本研究では,本グループが離岸流研究から得た知見を活用し,砕波現象が小さい海象時における離岸流発生場所における表面波の変形パターンを画像認識し,深層学習によってモデルを構築し,離岸流の発生を検知することを試みた.教師データに用いたのは,藤塚浜海岸において2015年に撮影された離岸流発生映像である.これをフレームに分解し,離岸流発生場所に顕著に見られる表面波の変形パターンをアノテーションし,モデルを構築した.モデルの構築には物体検出の最新のアルゴリズムであり,リアルタイムでの実行も可能なYOLOv8モデルを利用した.また,Dumitriuらの公開している大規模なデータセットで,低波高時の藤塚浜海岸での離岸流検知の適用可能性について検討した. 結果,Dumitriuらのデータセットでは低波高時の離岸流を検知することはできないことが確認できた.一方,本研究で作成したデータセットを用いたモデルでは同じアングルの離岸流映像に対して92.5%で離岸流を認識した.また,Dumitriuらのデータセットと藤塚浜海岸の離岸流映像から構築したデータセットを複合的に用いることで,カメラのアングル変化した場合にも,低波高時の離岸流発生箇所を90%以上把握することのできるモデルを構築した.