関晟慈 高齢者介護施設における避難確保計画の実行を阻害する要因に関する研究 松田曜子 近年我が国では,深刻な豪雨災害が頻発しており,2016年8月の台風10号では,河川の氾濫により岩手県の高齢者グループホームの入居者が逃げ遅れて9名全員が亡くなった. この災害を踏まえ,2017年6月に水防法等が改正され,防災対策などを定めた避難確保計画の策定が義務付けられたが,令和2年における豪雨災害において特別養護老人ホームでの人的被害が発生した背景に,避難確保計画を策定していたが,浸水リスクへの認識が十分でなく,計画通りの避難を実行することができなかったことが挙げられる. そこで,本研究では高齢者介護施設における現行の避難確保計画上で避難先として選定されている施設及び避難先までの移動経路に着目し,避難確保計画上に存在すると考えられる避難する際の阻害要因を検討することを目的とする. 上記の目的を達成するために,厚生労働省及び国土交通省が主体となって実施した「高齢者福祉施設の避難確保における実態調査」の調査結果を基礎集計し,避難確保計画上の避難先や避難行動などへの懸念点に関する自由記述への回答結果の分析,及びテキストマイニングを実施した.その結果,避難先へ避難する際の懸念点として,医療器具や介護用品などの設備や備品の不足,避難スペースなどの普段の業務を継続するための環境の確保が困難であること,災害発生時の職員不足.以上の3つに分類が可能であり,このことから,全国の高齢者福祉施設においては,避難先での設備・備品・環境面,災害発生時の人員面に関する懸念点を避難確保計画上の避難の実行を阻害する要因として検討可能であることが明らかとなった.  また,新潟県内の高齢者介護施設を対象に実施したアンケート調査における回答結果から判別分析を実施し,施設属性から,避難先や避難時の避難行動などに対して懸念点を抱える施設を予測する判別関係式を構築した.その結果,構築した判別関係式から,避難先までの距離が短い,総利用者数が多い,すなわち施設規模が大きい,建物の階数が小さい,すなわち建物が低い,滞在介護での利用者数の割合が大きい施設の場合に,避難先での介護環境の有無や避難経路の安全性,避難時の職員の不足などに懸念を抱えていることが判別可能となり,施設利用者の多さ,施設の建物の大きさ,施設に滞在している利用者の割合といった施設属性が,避難先での介護環境の有無や避難経路の安全性の不足,避難時に必要な労力の不足などの避難確保計画上の避難の実行を阻害する要因と関係していることが明らかとなった.