蓮岡 大我 2次元等価線形化法を用いた地盤傾斜基盤が地表地震動分布に及ぼす影響−2019年山形県沖の地震を対象に小岩川地区の被害の評価− 池田 隆明 2019年に発生した山形県沖の地震では,新潟県村上市府屋で震度6強が観測されており,震源近傍域では強い地震動が生じたと考えられるが,被害は比較的軽微で,主な被害は木造家屋の屋根瓦の被害であった.震源に近い山形県鶴岡市小岩川地区では屋根瓦の被害が多数の家屋に生じたが,当該地区に隣接する大岩川地区と早田地区では屋根瓦の被害がほとんど発生しなかった.3地区と震源までの距離はほぼ等しいことから,3地区の基盤入力地震動はほぼ同じであったと考えられる.また3地区の木造家屋の構造には有意な違いが見られなかったことから,被害の差は地表面地震動の違い,つまり基盤入力地震動を地表まで伝える表層地盤特性の違いが原因であると推察された.また,小岩川地区は海岸に沿って細長く広がる長さ500m程度の小さいエリアであるが,屋根瓦の被害状況を詳細に確認すると,被害が多い範囲と少ない範囲に分かれていることがわかった.そのため,小岩川地区は狭い範囲でありながら,地表面地震動が異なっていた,つまり小岩川地区の表層地盤特性は異なっており,それが被害分布に影響を与えたと考えられた.本研究では小岩川地区の表層地盤特性を現地調査,航空写真による地形判読,微動探査法と表面波探査法などの物理探査手法から明らかにする.さらに,得られた表層地盤特性を用いて二次元有限要素法により,地表地震動とその分布を明らかにし,基盤構造を含めた2次元の表層地盤特性が地表面地震動に及ぼす影響について検討を行った.解析結果は屋根瓦の被害分布と比較することにより妥当性の検証を定性的に行う.表層地盤特性は小岩川地区の縦断方向に対して実施した表面波探査法により評価し,微動探査および地形情報を用いて修正・検証を行う.表面波探査法では観測記録から地盤を伝播するRayleigh波の分散曲線(観測分散曲線)を求めるが,この設定精度が地盤特性の推定精度を支配する.本検討では,観測記録にはRayleigh波以外の波動(本研究ではノイズと扱われる)が含まれていることを前提に,地盤構造の連続条件を用い,分散曲線が連続的に変化する条件を加えて観測分散曲線を設定した.また,小岩川地区の現地踏査により,当該地区が逆分散を有する地盤ではないと判断し,観測分散曲線には逆分散性を許容していない.得られた観測分散曲線を再現できる一次元地盤構造(S波速度構造)をインバージョン解析で求め,水平方向に繋げることにより2次元S波速度構造を評価した.その結果,小岩川地区の両端部の工学的基盤は地表面から2〜5mであること,中央部に近づくにつれて工学的基盤は深くなることが明らかになった.この工学的基盤の形状は,屋根瓦の被害分布と整合しており,研究前の仮説を裏付ける結果が得られた.次に,得られた二次元S波速度構造を用いて,二次元有限要素法により地表面地震動の分布を評価した.地盤の非線形性は等価線形的に考慮している.その結果,地表地震動は工学的基盤が深くなっている部分で大きくなっており,地震動の分布と屋根瓦の被害分布は整合していた.そのため,小岩川地区が持つ固有の表層地盤特性により地表面地震動に差異が生じ,その結果屋根瓦の被害に差異が生じたと推測された.なお,二次元有限要素法により,地盤構造を修正してシミュレーションを行ったところ,工学的基盤の傾斜角度が地表面地震動分布に影響を与えることがわかった.