小野寺岳 2019年山形県沖の地震の津波シミュレーションに基づく小規模津波予測に関する研究 池田隆明 日本周辺の海域では東北地方太平洋沖地震をはじめとして,津波を伴う地震が数多く発生している.これらの既往津波の再現は,遡上高を評価基準として行われている.一方で 遡上が多く観測されていない場合や,震源から陸域までの距離が近い場合には,津波の波形や到達時間に着目した再現が重要であると考えられる.加えて既往津波の再現は,比較的大規模な津波としてきたため,波源となる断層のパラメータが解析結果に与える影響に ついては未だ不明瞭な部分がある. 2019 年に山形県沖を震源とする Mj6.7 の地震が発生した.海域で発生した地震であるが, 津波高さは最大で 11cmと規模は小さかった.一方,震源が陸域に近いため地震発生後 5 分で津波が到達しており,津波の規模が小さくても,到達時間の早さから津波防災の観点において注目すべき地震であった. 本研究では,2019 年山形県沖の地震による津波シミュレーションに基づき,これまであまり検討が行われてきていなかった小規模津波予測における震源のモデル化の影響について検討を行う.まず,従来の方法に基づき,当該地震を対象に津波高さと到達時間に着目 した津波シミュレーションを実施した.海底地形データには,従来の約 500m メッシュの GEBCOデータに代わり,海上保安庁海洋情報部から最新の 100m メッシュデータを提供していただき,解析精度の向上をはかった.震源モデルについては地震動の再現に用いられたモデルを使用した.また,本地震では津波の規模が小さいため,観測津波記録に含ま れる験潮井戸の応答特性の補正を行い,その影響についても明らかにした.その結果,津波の最大高さは概ね観測結果を再現でき,特に佐渡では到達時間や波形についても良い一 致を見た.一方,最も震源に近い鼠ヶ関では,最大高さは再現できたが到達時間について は差異が見られた. 鼠ヶ関の到達時間が再現できないことは,断層面の大きさの設定が適切ではないと考え られたため,断層面の大きさが予測結果に及ぼす影響を検討した.その結果,強震動予測手法から求まる断層面の大きさを変更することにより,到達時間や津波高さが変化すること,断層面までの距離が近いとこれらの影響は強く,距離が離れると小さくなることがわかった.また,津波予測に最適な断層面の大きさは強震動予測に用いる震源モデルとは異なる可能性がある等の知見が得られた.本研究により得られた知見は,大規模津波から小規模津波までを総合的に適切に評価できる津波予測手法の構築に貢献するものと考えられる.