藤縄 泰平 内部鋼材のすべてにステンレスを用いたプレストレストコンクリート構造の実用化に関する研究 下村匠 鋼材腐食の懸念が少ないPC構造を実現するため,ステンレス鋼(SUS鋼)に着目し,非腐食材料のみで構成したPC構造を実用化することを目指した.そのため,新たにSUS製定着具の開発,実用化に必要となる技術情報の検討,SUSPC構造の適用法の検討について行った. 昨年度に引き続き共同研究内でステンレス鋼を用いてくさび式シングルストランドタイプ定着具の開発を行った.目標の1つである定着効率95%以上は満足しているが,ウェッジの横割れを抑えるため,今年度新たにアンカーヘッドのテーパー角度や,鋼材硬度を微小変化させることで,割れを解消した定着具を開発することができた.そして,この完成品を用いてSUSPC鋼より線を緊張して定着する際に生じるめり込み量を確認したところ,セット量は約4mmであった. シングルストランドタイプ定着具開発の知見を用いて,マルチストランドタイプ定着具の開発・引張試験を実施した.ウェッジの割れはあったが,定着効率95%を満足することができた.割れはウェッジめり込み量のばらつきによるもので,圧入により均一に押込むことで抑制できると考えられる. SUSPC鋼より線を複数の角度で配置して緊張し,シースとの摩擦による緊張力の減少を測定した.普通PC鋼より線との比較を行い,鋼製シースとの組み合わせでは,SUSPC鋼より線の方が1割程度緊張力減少は大きく,PEシースとの組み合わせでは同程度なため,従来設計で用いられている摩擦係数を適用可能であると判断した. 本研究や既往研究から得られた知見を基にして,SUSPC構造を従来の設計・施工へ適用して問題ないか確認した.また,SUSPC鋼より線は普通PC鋼より線と比較して破断伸びが小さいことから,終局時に破断に至らないよう鋼材の終局ひずみに関しての照査が提言されている.一般的な構造物に適用して設計計算を行い,破断照査は必ず行う必要があることを明らかにした. SUS鋼は普通鋼と比較して高価なため初期建設費用は高くなるが,SUS鋼特有の高い耐食性により,長期間の検討期間を考慮すると,補修補強費用を抑えることができ,適用性の高い構造形式・規模があると予測した.ライフサイクルコストを試算し,普通鋼,エポキシ樹脂被覆鋼を適用したものと比較したところ,本検討条件においてもT桁橋のような中小規模構造物に対し適用性があることが明らかとなった.