杉本匠 中小河川の水理現象把握のための地形情報の取得手法に関する研究 細山田得三 近年,日本では豪雨の発生回数は増加傾向にあり,大河川だけでなく中小河川においても洪水の被害が顕著である.過去の事例では,令和元年台風19号による信濃川の増水で新潟県長岡市にある信濃川水系の太田川と浄土川でバックウォーター現象が発生し,浄土川の氾濫により今井地区で浸水被害があった.こうした中小河川の水理現象を把握することは今後の水害対策を考える上で重要となる.しかし,新潟県内だけでも中小河川の延長は約4000kmもあり,数値解析に必要な水位や流量等の水文データ及び河川縦横断測量データを全河川で管理するのは,予算的・時間的に困難である.本研究では,中小河川を対象に数値標高モデル(DEM)と常時水面下で欠測している河床標高補完の為,別途測量で得た河床標高データを活用し,iRICや独自開発した数値解析プログラムに使用できる河川縦横断測量データを安価で迅速に作成することでデータ作成時の負担を軽減し,その問題点や課題を明確にすると共に再現計算により中小河川の水理現象を把握することを目的とする. 本研究では,国土地理院で公開されている2mDEM・5mDEM・10mDEMと日本域表面流向マップで公開されているJ-FlwDirを基に研究対象河川である新潟県長岡市太田川の縦横断測量データ作成を行う.また,観測流量の整備不足を補うため,iRICの流出解析ソルバー(SRM)により流量の推定を行い,1次元解析ソルバー(Nays1D)で令和元年台風19号通過時に太田川で発生したバックウォーターの再現計算を行った.その結果,2mDEM・5mDEMを基に数値解析のための河川縦横断測量データを作成することができた.10mDEM・J-FlwDirは,数値解析で重要となる堤防・高水敷・低水路・河床標高の表示が曖昧で縦横断測量データの作成には不向きである.特にJ-FlwDirは堤防などの詳細な構造物を反映することには不十分である.再現計算では,太田川計算領域の下流側で約16時間30分にかけてバックウォーターが発生して河川水が流れにくい状態になっていることを把握できた.よって,独自の手法で作成した縦横断測量データは実河川の数値解析に有用だとわかった. 今後の展望として,縦横断測量データの作成はプログラムによってある程度は自動化できたが,どうしても人力による処理が必要な部分があるため,今後は完全自動化の手法を検討する必要がある.また,本数値解析では太田川と浄土川の河川合流点の流れは考慮されていないため,今後は河川合流点の流れの計算を考慮した縦横断測量データ作成と数値解析法を検討する必要がある.