會川健朗 機械学習と画像認識技術を組み合わせた斜面のAI広域危険度評価に関する研究 大塚悟 従来の斜面危険度評価は,地質や地形,降雨状況を入力因子として斜面崩壊を評価するものだったが,その多くは周囲の地形を考慮できない独立したメッシュを用いた手法である.斜面の面の崩壊規模を考えると,大規模の崩壊はマクロスケールの地形の影響を受けるのに対して,崩壊規模の小さい崩壊はミクロスケールの地形の影響を受ける.したがって,従来の方法は斜面の崩壊特性を反映しない問題がある.そこで本研究では,既往の研究の知見を参考として,広域の情報を入力した機械学習による予測を実施し,その結果を入力とする画像認識を行うことで2段階の予測を試みた.1段階目の機械学習によるポイントワイズな危険度評価では,H23年7月豪雨を対象として広域な情報を入力した既往のモデルの精度向上を目的に,地形情報の5mおよび10m移動平均を用いたほか,赤色立体図で用いられる地上開度,地下開度,尾根谷度を追加で入力し,バギング木によるモデルを作成した.この際,広域情報を入力した既往のモデル,広域情報を入力しない1mメッシュ単体のモデルについても検討を行ったが,本研究で提案するモデルの有効性が示された.その上で学習した地域と,斜面崩壊の誘因,素因が異なる他地域への適用性を検討した結果,その適用性は著しく崩壊特性には地域性の極めて高いことが分かった.しかし,斜面崩壊の誘因,素因が同等と扱える地域では,提案する手法は適用性が高いと考えられる.2段階目のpix2pixを用いた崩壊ブロックの抽出では,まず,pix2pixにおける崩壊ブロックの抽出に最適なモデル,学習画像のサイズ及び種類について検討した結果,危険度評価値をグレースケールとした画像を細かく分割して学習させたモデルが最適であることが明らかとなった.その上で,画像認識で作成した生成モデルが機械学習の精度が低い場合の適用性について検討したが,機械学習の精度が低いと生成結果も悪くなり,生成モデルは機械学習の精度に依存することが明らかとなった.機械学習の精度が高いことで生成モデルの学習が容易になるため,提案する手法は崩壊ブロックの生成に適している.さらに,学習した地域と,斜面崩壊の誘因,素因が異なる他地域への適用性を検討した結果,生成モデルは地域性の影響が小さいため,他地域への適用が可能であることを確認した.最後に生成モデルの精度向上の課題について考察し,単に学習画像を増やすよりは危険度評価の質を向上する必要性を示した.現段階では機械学習の精度を向上する方法以外に最適化の判定基準はないが,精度を上げると崩壊事象を的確に表現するものの崩壊する可能性のある崩壊ブロックの抽出数が少なくなるために,崩壊予測の観点ではトレードオフの課題となっている.危険度評価の予測に適切な手法の更なる検討が必要である.