熊谷泰知 インドネシア・パル市で発生した大規模地盤流動メカニズムに関する一考察 池田隆明 2018年9月28日にインドネシア共和国のスラウェシ島中部でMw7.5の地震が発生した.震源近傍域のパル市では強い地震動が生じるとともに,液状化の発生や最大高さ3mの津波に加えて,大規模な地盤流動などによる被害が発生した.この大規模地盤流動は複数の地域で発生し,パル市中央に甚大な被害を与えた.この被害の特筆している点として,最大傾斜が約3.9%と緩傾斜であったこと,流動範囲は最大で約3.5~1.5kmにもわたっていたことであり,世界でも例を見ない被害として挙げられている.この地盤流動の発生メカニズムは単純ではなく,様々な研究者たちによって考察されている. 一考察の一つとして,被災後のボーリング試験結果や被害状況,地形条件などから現地地盤には被圧された地下水が存在しており,不透水層とよばれる層がその地下水を閉じ込めていた.そして,地震が発生した際に不透水層が破壊され,被圧された地下水が噴出し,地下水の供給が止まらなかったと考察されている.そこで本検討では,不透水層が破壊される地盤のケースについて数値解析を用いて評価した.具体的に流動域でのボーリング試験結果を用い,非液状化時,不透水層より上部の液状化時,下部の液状化時,上部下部双方の液状化時の4つの極端な解析ケースを考え,解析を行った. 解析結果としては,不透水層より上部層のせん断波速度が小さいため,ひずみが大きく発生したこと,不透水層より上部層の液状化の発生が一番大きいひずみを生じること,不透水層より下部層の液状化の発生は地盤全体に大きいひずみの発生はないという結果となった.以上のことを踏まえると,不透水層より上部層液状化の発生により,大きなせん断ひずみが発生し,不透水層が損傷することにより被圧されていた地下水が流入に,今回の被害に至ったことが示唆された.また,簡易液状化判定を非流動域で実施したところ,非流域では液状化しにくい結果となり,液状化の発生が今回の地震被害に関係していると結論付ける. 今後の展望として不透水層での液状化の発生を考慮した有効応力解析や,現地で表面波探査を実施することで地盤構造の推定を行いボーリングデータの妥当性などについて考察していく必要がある.また,現地試料を用いた実験を行い,解析パラメータを現地に忠実に入れ込むことが必要であると考えられる.