増田健 仮想空間技術を利用したコンクリート構造物の維持管理システムの開発 中村文則 既往研究において,数値シミュレーションによりコンクリート構造物の劣化現象を予測する研究が盛んに行われており,構造物の劣化過程を時空間的に予測できるようになりつつある.その一方で,ICT・IoT技術などの情報工学技術が急速に発達し,その方法論が様々な分野で利用できるようになっている.このことから,土木分野で開発されてきた数値シミュレーション技術と,情報工学技術を融合させることで,コンクリート構造物の劣化予測解析および維持管理を効率的に実施できる可能性がある.本研究では,3次元仮想空間技術と数値シミュレーションを融合したコンクリート構造物の維持管理システムを開発することを目的として,仮想空間内に構築したコンクリート構造物を対象に環境作用と表面・内部現象の予測解析を実施した. 予測解析の項目は環境作用として日射,風況,降雨,コンクリ―ト表面・内部現象として温度,到達雨滴である.日射は太陽座標より太陽高度および方位を算出することで時間に応じた日射の作用方向を計算した.風況はレイノルズ平均ナビエストークス方程式を,乱流モデルの一つである標準k-εモデルを使用した計算により予測し,降雨はオイラー混相流モデルを使用した.温度は日射による陰影を考慮した3次元熱伝導方程式で予測した.これらの予測解析を仮想空間に構築することで,実空間の現象を仮想空間内で再現可能であることが示された. また,予測結果について,コンクリート模型による屋外実験を実施し,妥当性の検証を行った.予測解析の内,降雨の検証は行っていないが,環境作用として日射,風況,コンクリート表面・内部現象として温度,到達降雨の検証を行った.環境作用の検証として日射と風況は実験結果と時系列でほぼ一致していることが確認された.コンクリート表面・内部現象の検証として温度は実験結果と時系列でほぼ一致していることが確認され,到達降雨については時系列で実験結果との一致があまり見られなかったが,到達分布はおおよそ一致することが確認された. 以上の結果から,仮想空間技術と数値シミュレーションを融合することにより,仮想空間内でコンクリート構造物に作用する自然環境作用とその内部現象を時空間的に予測できることが明らかになった.さらに,予測結果と屋外実験の比較から,維持管理システムの予測結果が妥当であり,構造物の維持管理に適用できることが示された.