齊藤 駿介 ステンレスPC鋼材を用いたプレテンションPC部材の力学特性 下村 匠 プレストレストコンクリート(以下PC)構造におけるPC鋼材の腐食は構造の著しい性能低下に直結し,構造上致命的な損傷に進展しうる.また,近年では高耐久鋼材であるステンレス(以下SUS)鉄筋の利用が期待されており,PC構造においてもプレキャスト床版でSUSPC鋼より線の利用が期待されている. そこで,本研究は,プレテンションPC構造の高耐久化を目指し,緊張材に高耐久性鋼材であるSUSPC鋼より線を適用した場合の設計法について力学的提言をするものである. SUSPC鋼より線は普通鋼材よりも破断ひずみが小さく,はり部材の終局時に影響することが既往研究で明らかになっているが,終局時の設計法や応力-ひずみモデルなどが未検討である.また,表面性状の違いによるコンクリートとの付着特性の相違についても報告されているが設計における提言等はなされていない. まず,SUSPC鋼より線の引張特性を把握するため引張試験を行った.この結果,従来では38,000μとされていたSUSPC鋼より線の破断ひずみが実現象では20,000μ未満で破断することが明らかとなった. 次に,曲げ耐荷特性の検討では,7mのSUSPC,普通PCの大型試験体を2体製作し基礎的な曲げ載荷試験を行った.その結果,ひび割れ発生荷重やその後の剛性低下等は普通PCと同様の挙動となり従来の設計法等でも十分適用できることが示せた.しかし,SUSPC鋼より線の破断ひずみが普通PC鋼より線よりも小さいため,終局時では,SUSPC試験体において鋼材破断による終局となった.これにより,従来では考慮されていない終局時の鋼材ひずみに留意する必要があり,実設計では上縁コンクリートの圧壊時に鋼材ひずみが許容値に達していないかの照査が必要であることを示した. さらに,SUSPC鋼より線は普通PC鋼より線と異なり金属光沢を有していることなどから表面性状やそれに伴うコンクリートとの付着特性が異なることが予想された.よって,付着特性に依存するプレストレスの伝達性能,定着性能の検討を行った.その結果,SUSPC鋼より線が普通PC鋼より線と比較して良好な付着性能を有していることを明らかにした. これらの実験結果より,設計や解析に用いるSUSPC鋼より線の新たな応力-ひずみモデルを提案するとともに提案モデルを用いたはりの載荷試験の再現計算によりその妥当性も示した.さらに,曲げ終局時の鋼材破断を防止するために17,000μをSUSPC鋼より線ひずみの制限値として設けた.また,普通PC鋼より線よりも優れた付着特性を有しており,プレテンションPC部材の伝達長やコンクリートとの定着性能等,現行の設計法に大きな制約を課す必要は無いことを明らかにした.