小松侑矢 ステンレス製定着具を用いたポストテンションPC部材の開発 下村匠 ステンレス鋼を用いることでポストテンションPC構造のすべてを非腐食もしくは腐食の恐れの少ない部材とすることができ,鋼材腐食によるPC構造の性能低下がない高耐久な構造が実現可能であると考えた.そこで新たにステンレス鋼製の定着具を開発し,それを含む鋼材のすべてをステンレス鋼としたポストテンションPCはりを試作し曲げ載荷試験を行った. ステンレス鋼を用いてくさび式シングルストランドタイプ定着具の開発を行った.定着効率95%以上という目標はすぐに達成できたが,定着効率95%未満で定着具が破壊したり著しい変形を起こしたりしないという目標には苦労し,特にウェッジの横割れを抑えるために様々な鋼種や処理,組合せを試験した.最終的にウェッジにSUS420J2の焼入れ焼き戻し材,アンカーヘッドにSUS420J2の焼きなまし材を用いてウェッジの太径化および後端細径化を行ったケースでは両目標を満たすこともあったが,試験回数を増やすとウェッジに横割れが発生したため,あと一歩開発に至らなかった. 開発したステンレス鋼製定着具を用いて鋼材のすべてをステンレス鋼としたはりを試作し,プレストレス減少量の測定および曲げ載荷試験を行った.セット量はステンレス鋼製定着具のほうが大きかったが,リラクセーションは普通鋼と同等であった.曲げ載荷試験ではステンレス鋼を用いた場合は普通鋼に比べ鋼材の剛性が低いため終局荷重は小さくなったが,普通鋼を用いたはりに比べ大差はなく,せん断スパンの差による結果への影響もなかった.試験結果は解析により良好に再現できた.また試作したステンレス鋼製定着具は終局まで破損することなく定着でき,鋼材の引き込みもなかった. 曲げ載荷試験の結果より,ステンレス鋼をポストテンションPC構造に用いる際の留意点について述べた.部材を設計する際は,ステンレスPC鋼より線の荷重-伸び関係を考慮すれば従来通りに行ってもよいこととした.しかしステンレスPC鋼より線は普通鋼より線と異なり破断伸びが小さいという特徴を持っているため配慮が必要で,特に安全性においては終局時に破断に至らないよう鋼材の終局ひずみに関しての照査が必要である.また緊張中や緊張直後の鋼材引張応力度に関しては従来通りの規定に基づいて行えばよいこととした.