仲井　大樹

腐食切れの生じた鋼トラス橋斜材の簡易的な耐荷力評価に関する研究

岩崎　英治　

近年，我が国では橋梁の経年劣化に伴う腐食損傷事例が増加しており，腐食損傷に対する適切な維持管理が求められている．鋼トラス橋の腐食事例のうち，圧縮斜材の腐食が進行し，すみ肉溶接の一部が切れる(以下，腐食切れ)事例がある．この損傷の健全度評価の明確な基準や手法は定められていなかったが，既往の研究「腐食切れの生じた鋼トラス橋斜材の健全性評価に関する数値解析的検討」により明確な基準と手法が提案された．しかし，提案された手法では，腐食切れの生じた斜材の耐荷力を簡易的に評価する際に，斜材の板ごとに線形座屈解析を実施する必要があり，手間や時間がかかる．また，提案された腐食切れの生じた板要素に適用可能な座屈強度式では，腐食切れ比a/bが1.0より小さい場合に適用できない課題もある．そこで本研究では，これら既往研究の課題を改善し，腐食切れの生じた斜材の耐荷性能を簡易的に求める手法を探求した．
本研究の目的は，腐食切れの生じた圧縮斜材に対して，簡易的な耐荷力評価手法を構築することである．簡易的な耐荷力評価手法を探求するにあたり，腐食切れの生じた板の線形座屈解析を実施し，腐食切れ比a/bと座屈係数kの関係に関する回帰分析を行った．これにより，腐食切れの生じた板の腐食切れ比a/bと座屈係数ｋの関係が明らかとなり，腐食切れ比a/bと座屈係数kの関係式を作成した．この関係式を用いることで，腐食切れの生じた板ごとに線形座屈解析を行うことなく腐食切れの生じた板の局部座屈強度σuを求めることができる．
また，腐食切れの生じた板の弾塑性座屈解析を実施し，腐食切れ比a/b=0～5の範囲についての局部座屈強度σuと幅厚比パラメータRの関係を明らかにした．さらに，弾塑性座屈解析の結果の回帰分析を行い，腐食切れの生じた板要素に適用可能な局部座屈強度式を新たに作成した．これにより，腐食切れの生じた鋼板の腐食切れ比a/bを把握すれば局部座屈強度σuを求めることが可能となった．
最後に，これら本論文で作成した腐食切れ比a/bと座屈係数kの関係式と腐食切れの生じた板の局部座屈強度式を組み合わせることで，腐食切れの生じた斜材の連成座屈応力σcrを簡易的に評価できる手法の提案を行った．