高村 亘 不確実性を考慮した発災前後における救援物資輸送経路決定手法の検討 佐野 可寸志 近年,我が国における災害発生状況は甚大化・頻発化の傾向にあり,毎年自然災害によって多くの人命や財産が失われていることから,各自治体において事前の防災計画や災害応急対策の重要性が高まっている.災害対応で問題となる点は,災害・被災状況および限られた人的資源・物的資源が事前計画とは異なり,災害発生からの経過時間に応じて絶えず変化する点である.そこで本研究では,災害対応の中でも近年の災害において問題点が多数見られた救援物資輸送対応に着目し,発災からの経過時間によって変化する輸送条件や制約を考慮した輸送経路決定アルゴリズムを検討する.まず,対象地域である長岡市の現況の災害対応体制を明らかにし,その課題から自治体の救援物資輸送の意思決定を支援するシステムを構築した.そして,構築したシステムを長岡市の総合防災訓練で試験的に運用し,システムの課題と実行可能性の高い最適解を算出するためのアルゴリズムの課題を明らかにした.次にその課題を受け,複数拠点からの物資輸送や使用できるトラック台数の制約を考慮したアルゴリズムを検討した.定式化したアルゴリズムでケーススタディを行うことによって,それらを考慮した実行可能性の高い解を算出が可能であることを確認し,さらに解の精度を高めるためのアルゴリズムの課題を明らかにした.最後に,災害発生直後に正確な災害・被災状況を得ることは困難であることから,不確実な道路状況下においてもその影響を極力受けない輸送経路決定アルゴリズムを検討した.アルゴリズムには,最悪状況で最適な意思決定ができるロバスト最適化を用い,洪水想定浸水区域上にある道路ネットワークの想定浸水深をもとにそのリンクの遅延時間を設定し,それをパラメータとして定式化した.洪水想定浸水区域図から浸水規模の異なるシナリオを複数作成しケーススタディを行うことによって,それぞれの浸水規模で浸水リスクを考慮した経路決定が可能であることが明らかになった.そして,そのアルゴリズムの利点を活かすことができる輸送条件と,アルゴリズムの課題を検討した.全体の結論として,発災前,発災直後,発災から十分に時間が経過した後の各段階において,アルゴリズムを条件に応じて使い分けることで,実行可能性が高い解の算出が可能であるといえる.