木村 大地 渋滞運転時の副次課題がヴィジランス低下防止に与える影響分析 佐野 可寸志 本研究の目的は,渋滞運転時における副次課題が覚醒度およびヴィジランス低下に与える影響を分析し,その結果から漫然運転を軽減する方策を示すことである.渋滞運転時では,単調運転や緊張感の減少による覚醒度低下からヴィジランス低下が発生し交通事故に繋がると考えられる.ヴィジランスとは,長時間にわたって刺激に警戒する能力の事であり,ヴィジランスが低下すると刺激に対する反応が鈍くなる傾向がある.ヴィジランス低下要因の一つとして覚醒説が存在する.本研究では,漫然運転の定義を“覚醒度が低下し反応が鈍くなっている状態”とし,覚醒度を維持することで漫然運転を軽減する効果が期待されると考えた.自由走行時における覚醒度の維持手法として副次課題は効果があるとされており,渋滞運転時においても同様の効果が期待されることから,本研究における覚醒度維持手法として副次課題を採用した. まず,副次課題を提供する上で,副次課題への興味が覚醒度に与える影響を調査する目的で予備実験を行った.その結果,副次課題への興味の程度による覚醒度の差異は見られなかった.次に,副次課題がヴィジランス低下および覚醒度に与える影響を調査するため,渋滞運転を想定した実験を行い,生体反応を計測し分析を行なった.計測項目はヴィジランス低下の指標として反応時間を,覚醒度の指標として視行動および瞳孔径変化を採用した.分析対象データは,先行研究で行われた実験と本研究で行なった本実験の2種類とした.提供副次課題は,課題に対する取り組み姿勢が覚醒度に影響を与えると仮定し,受動的副次課題と能動的副次課題の2種類とした.本実験では途中で副次課題の変更を行い,その影響を調査した.分析の結果,受動的副次課題実施時において覚醒度の低下が確認された一方,能動的副次課題実施時において覚醒度維持の効果が見られた.しかし,単一の副次課題を実施した場合では,副次課題のタイプによらずヴィジランス低下が発生した.一方,途中で副次課題を変更した場合では,単一の副次課題を実施した場合に比べると高い覚醒度を示し,ヴィジランス低下は確認されず,副次課題変更による効果がみられた.本研究より,渋滞運転時において,副次課題を適切に提供することにより,ヴィジランス低下を防ぐ可能性が示された.