雲 琢磨 下水熱を活用した循環わさび栽培の高効率化 姫野 修司 下水熱とは、下水が有する熱エネルギーのことで、外気温より温度の変動が少ないことが特徴である。下水熱からは夏期は冷熱、冬期は温熱の回収ができる。本研究では、ほとんどが未利用の下水冷 熱の活用として、わさび栽培を行った。わさびは通年で、栽培水温を 20[℃]以下に管理する必要があり、冷熱需要がある。本研究は、新潟市内の下水処理場内で実施しており、塩素混和池から下水熱を 回収し、540[株]のわさびを栽培した。 下水熱は、塩素混和池内にコイル式熱交換器を浸漬させ、放流水から回収した。放流水温度は通年 で 15~28[℃]で変動した。冷熱運転時で、最大 6640[MJ/day]、温熱運転時で、最大 3712[MJ/day]を熱 回収した。その後、ヒートポンプ(以下、HP)で冷熱運転時では 7[℃]、温熱運転時では 40[℃]の冷温水 を製造した。製造した冷温水はわさび栽培水の冷却・加温に利用し 12~16 [℃]に調整した後、0.15[L/min・苗]で供給した。栽培水は再び冷却・加温することで栽培水を排水しない循環栽培とした。 下水熱の採熱において、既存研究で行っている浸漬方法による採熱に加えて引き込み式による採熱を行った。汚水由来の汚れに対するメンテナンス性能については、浸漬型では 3 年以上性能低下無し、引き込み式では 8 カ月間で11%の性能低下を確認した。また、採熱に必要な動力あたりの熱回収効率では、浸漬型の方が 1.7 倍高い結果となった。また、わさび栽培で消費する熱量を削減するために、循環栽培システムから曝気槽を撤去した。曝気槽撤去後 4 カ月間で、消費熱量は 19731[MJ/day] となり、前年度から 22%の削減効果を確認した。また、本設備の栽培プラントは地上に形成している。栽培プラントを地下に形成し、地下水をかけ流してわさびを栽培している栽培田では、本設備より10%低いことを確認した。これより、栽培水の滞留を削減し、培地を地下に形成することで熱消費を削減できることを確認した。また、わさび栽培については、わさび 1 株あたりの栽培面積を 70%削減して栽培を行った。生育 8 カ月時点で、栽培面積を削減したわさびの生育に遅れは無いため、約 3.2 倍となることが期待できる。 下水処理場内で、下水熱を活用しわさび栽培を行う際の使用電力削減を目的に、栽培ハウスの屋根全面で太陽光発電を行った際の通常電力削減量を検討した。本設備での消費電力の実測値 274[kWh/m2・年]に対して、予想発電量は 178[kWh/m2・年]となり、65%の通常電力削減効果を確認した。また、1日処理水量23000[m3/日]の下水処理場規模での試算では、消化工程のある下水処理場で植物栽培を行うことで、9422[t-CO2/年]の削減効果となりカーボンマイナスを達成した。