石塚胡桃 高齢者介護施設における水害経験を踏まえた避難確保計画の実効性向上に関する研究 松田曜子 本研究では,実際の水害時の避難行動がどのように水害後の防災対策に活かされているかアンケート調査とヒアリング調査により明らかにし,実効性の高い避難確保計画及び避難訓練についての検討を行うことを目的として行った. まず,高齢者介護施設の浸水リスクを把握するための基礎的な分析として,長岡市の浸水想定区域内に位置する高齢者介護施設を対象に,施設の建物階数と想定浸水深の比較を行い,高齢者介護施設の浸水リスクに関する考察を行った.その結果,想定浸水深よりも建物の階数が低い危険性のある施設が約4割であることが分かった.浸水する可能性のある施設では,施設の浸水リスクや水害時の課題を把握する必要があると言える. 次に,令和2年7月豪雨時の避難のきっかけ,避難時間,避難の現状及び課題を明らかにするためのアンケート調査を行った.避難時間については,物資の移動が誘導時間に影響していることが明らかとなった.避難の課題については,避難確保計画通りの避難ができなかった施設が4割であり,車両の渋滞や避難先の変更といった避難訓練では想定していないような課題が発生していることが分かった. 次に,アンケート調査より計画通りの避難ができなかった施設を対象に,7月豪雨の経験がどのように事前防災対策に活かされているか明らかにすることを目的とし,豪雨前後の事前防災対策の違いや計画通りでなかった行動の対策についてのヒアリング調査を行った.事前防災対策の違いについては,入居者の状態に合わせた訓練や避難完了後の対応の見直しを行ったことが明らかとなった.計画通りでなかった行動の対策については,主に避難先の変更について挙げられた.施設外避難を行った施設において,地域の避難所は設備や一般の住民の方との集団生活から避難を躊躇したことから,対策として同法人内の系列施設への避難を検討していた.ヒアリング調査の結果を踏まえて,避難確保計画への補足項目の検討を行い,施設の想定している避難行動を考慮したフローチャートを作成した. 以上を踏まえて,水害を経験した施設の避難行動や課題を踏まえることで,既存の避難確保計画及び避難訓練における課題を明らかにし,反映させることが可能であると言える.また,施設の想定している避難行動に合わせた具体的な計画が必要であると言える.このような水害経験からの新たな気づきを他施設に共有する機会を設けることで,実効性の高い避難確保計画の作成につながると考える.