肥田野 敦 分布型水文モデルによる球磨川流域の長期流出解析 陸 旻皎 我が国の治水計画策定において,長期の記録が存在する雨量を確率処理し流出モデルを介して想定の確率規模に相当する確率流量を算出するという手順をとっている.ここで算出した確率流量と実績の洪水流量から基本高水流量が算定される.しかし,気候変動による豪雨の更なる頻発化・激甚化によって,雨量自体の定常性が崩れつつあると考えられる.その場合に,多くの国で採用されている流量データを用いて直接的に確率流量を算出する手法も検討しておく必要がある.本研究では,陸ら(1989)の分布型水文モデルの既往の洪水流量波形の再現性を確認し,令和2年7月豪雨洪水を再現計算することおよび分布型水文モデルによる計算流量から流量データを作成し,確率流量を流量データから直接算定する手法の適用性を検討することを目的とした. 対象流域は令和2年7月豪雨によって河川整備計画の見直しで従来の基本高水流量算定手法が用いられた球磨川流域を選定した.球磨川流域に分布型水文モデルを構築しモデルのパラメータを同定した.モデルの入力値は1時間単位の気温,降水量,日照時間を用いて最近隣法により作成した.降雨流出モデルには新安江モデル,河道追跡モデルにはキネマティックウェーブ法を用いた.同定期間(1999-2019)の年間河川流量の水収支,洪水イベントに関して,適合度の高い再現精度を得ることができた.その上で令和2年7月豪雨(2020)の洪水イベントを同定したパラメータによって検証計算した.その結果,貯留関数法の計算ピーク流量を真値として比較すると,分布型水文モデルの計算ピーク流量は過小である傾向がみられ,更に検討することが必要であったことが分かった.また,すべての洪水イベントの計算年最大流量の生起時間は全体的に1時間程度早い傾向がみられた.更に,分布型水文モデルによって算出した年最大流量から水文統計解析によって確率流量を算定した.その結果,適合度の高い確率分布モデルは一般化極値分布(Gev)となり,人吉地点の確率流量は7,886 m3/sとなった. 結論として,分布型水文モデルは対象流域において,洪水イベントの再現計算や,流量予測に実用可能であるといえる.また,分布型水文モデルは今後の我が国の河川計画に応用できる可能性が高く検討に十分値することが言える.分布型水文モデルによる年最大流量から直接的に確率流量を算出し,基本高水流量を算定する手法について分析したが,この算定手法にはさらに慎重な検討が必要である.