佐藤翼 実測結果に基づく木造構造物の振動特性に関する研究 池田隆明 2019年の山形県沖を震源とする地震では,震源近傍の村上市府屋で震度6強の揺れが観測されたが建物の倒壊といった被害は発生しなかった.建物が倒壊しなかった要因として,木造構造物の応答が小さかったため耐震強度を超えなかったとういう仮説を立てた.そこで,本研究では,村上市府屋の木造構造物の固有振動数を算出し,木造構造物の応答が増幅した可能性について調査を行った. 木造構造物の固有振動数は常時微動による算出を行った.常時微動の計測を行い得た常時微動の波形から伝達関数を用いて固有振動数を算出した.また,伝達関数は,1階と2階で計測された常時微動の同一方向のフーリエスペクトル比である. 木造構造物の常時微動の計測は,村上市中浜にある2棟の木造家屋で行った.また,2棟の木造家屋をそれぞれ木造家屋A,木造家屋Bとする.木造家屋Aは1963年に建てられた旧耐震基準の家屋であり,木造家屋Bは1983年に建てられた新耐震基準の家屋である. 算出した木造家屋の固有振動数は,木造家屋Aが桁行方向3.8Hz,梁間方向4.0Hzであり,木造家屋Bが桁行方向5.7Hz,梁間方向5.0Hzであった.この結果から,木造家屋Aでは桁行方向の固有振動数が梁間方向の固有振動数より小さくなった.木造構造物の固有振動数は桁行方向の方が大きくなることが多いと考えられる.固有振動数が逆転した原因として,まず木造構造物の持つ構造的な特徴によるものが挙げられる.しかし,木造家屋Aでは他の要因も考えられる.それは,新潟地震による影響である.木造家屋Aは1964年の新潟地震を受け主に桁行方向の壁にひび割れが発生していた.このひび割れによって壁が本来持っていた剛性を失った可能性が考えられ,そのため固有振動数が逆転したと推測を行った. 最後に得られた固有振動数の評価を行った.木造構造物の応答が増幅する要因として,木造構造物と地震動の固有振動数が一致する共振現象が考えられる.そこで,山形県沖の地震の加速度応答スペクトルを作成した.山形県沖の加速度応答スペクトルと今回調査を行った木造家屋の固有振動数を比較すると,木造家屋A,木造家屋Bともに加速度応答がピークとなる振動数からは外れていた.しかし,兵庫県南部地震の加速度応答スペクトルと比較を行うと山形県沖の地震の方が最大の加速度応答は大きかった.そのため,今後は木造構造物の耐震強度といった視点からも調査を行う必要がある.