横江佳人 経験的地震動評価手法を用いたヤンゴン市の地震危険度評価 池田隆明 地震のリスク評価には,簡便な評価法である,距離減衰式を使用して評価を行うことが良く行われている.しかし,距離減衰式を使用した評価方法は,簡単にリスク評価ができるというメリットがあるが,断層破壊の指向性効果,断層の不均質性など詳細な断層パラメータを考慮できていない.そのため,本研究では,ミャンマーを対象に波形合成法を使用してリスク評価を行うことを目的とする. ミャンマーを対象とした背景として,SATREPSというJICAなどと開発途上国の研究者が共同で研究を行うプログラムの一つとして「ミャンマーの災害対応力強化システムと産学官連携プラットフォームの構築」というプロジェクトが進められている.このプログラムの研究の中で,ヤンゴン市内の地盤増幅率を求め,建物の被害を算出する研究が行われている.しかし,これらの研究で使用されている工学的基盤面での地震動は30kine統一として考えられている.そこで,本研究では,ヤンゴンで波形合成を使用して詳細な工学的基盤を求めることとする. 本研究では,過去の地震履歴・既往の文献を参考に6つの断層からの地震動を想定した.また参考として,ヤンゴン市直下にM7クラスの内陸型地震も考えた.強震動予測手法にはEMPRを使用した.EMPRは経験的地震動予測手法で,断層の不均質性や断層破壊の指向性効果といった詳細な断層パラメータを考慮できる.EMPRに必要な断層パラメータは,断層の長さ,幅,地震モーメント,断層の走向,断層の傾斜角,各小断層のモーメント比,断層とサイトの相対的位置(Xs,Ys)である.断層パラメータは,基本的に強震動予測レシピに従い設定した. 強震動予測レシピは,震源断層を特定した地震を想定した場合の強震動を高精度に予測するために誰がやっても同じ答えが得られる標準的な方法論である.評価対象地点は,ヤンゴン市を縦30km×横25kmに1kmの間隔でメッシュに区切った.地盤の増幅率には,松本(2020)の研究から得られた地盤増幅率を使用し,メッシュに補間した.結果としては,北側から南側へ破壊する方向に地震波が増幅し,30kineを超えるケースは無かった.地震波が増幅した原因としては,断層指向性効果がいる.また,過去の断層を想定した工学的基盤面での地震動では,30kineを超える結果は出ないということが分かった. ヤンゴンでは,建物の耐震性が日本と比べて弱い傾向にあるので,今回求めた地震動で被害を算出することに有効活用できるのではないかと思っている.