DOLGORSUREN OYUN-ERDENE モンゴルにおけるコンクリート構造物の設計,施工,維持管理の現状と課題 下村匠 近年,モンゴルでは人口が急増しており,インフラ整備の重要性が増している.これに伴い,コンクリート構造物の劣化,維持管理,更新において様々な問題が顕在化してきている.そこで,本研究はモンゴルにおけるコンクリート構造物の設計,施工,維持管理について調査し,これらに関する課題を明確にすることを目的とした.モンゴルの事情をより相対的に評価するため,本研究では日本およびベトナムと比較しながら検討を進めた. まず,モンゴルにおける建設業について,インフラの設計・施工業者,セメントおよびコンクリートの生産・製造体制を調査した.セメントの生産体制について,以前は中国からの輸入量が多かったが,現在では100%国内生産していることがわかった.コンクリートの製造体制について,様々な種類のコンクリートを生産する工場が国内に約200箇所あること,および近年ではプレキャストコンクリートの生産量が多くなっていることがわかった. 次に,モンゴルにおける建設業の課題を整理した.その結果,建設設計基準および維持管理の制度に関する課題が挙げられた.建設設計基準は主にロシアの古い基準が翻訳されたものでモンゴルの現状に適しないことがある.そのため,設計基準における調査を進め,基準を改定する必要があると考えた.また,構造物の維持管理については,定期的な補修があまり行われていない現状にある.そこで,施工会社の維持管理を行う期間を長くすること,管理者が厳格に竣工検査することを対策として挙げた. 最後に,モンゴルにおけるコンクリート構造物の劣化現象について調査した.文献調査の結果,初期欠陥の他に凍害が問題であることがわかった.現状では劣化現象に関する調査は十分ではないため,今後さらに調査を進める必要がある.上記のような劣化現象が起きる原因の一つとして,モンゴルのコンクリートに使用されている材料の品質が良くないことが挙げられた.そこで,これについて実験的に検討した.実験ではモンゴル,日本,ベトナムの各国の配合設計法によって配合を決定し,日本の材料を使用したコンクリート供試体を作製した.また,フレッシュ性状と強度発現性を検討するためにスランプ試験,圧縮強度試験を行った.スランプ試験の結果,モンゴルとベトナムの配合では適切なフレッシュ性状が得られなかった.これは,使用する骨材の形状,粒度分布が違うことに起因すると考察した.圧縮強度試験の結果,3国の配合は全て目標強度を超えた.この結果より,モンゴル,ベトナムで一般的に用いられているセメントは日本のセメントと大きな違いはないと間接的に推察した.