GANTUMUR GALMANDAKH 腐食減肉の生じた集成柱部材の耐荷力に関する研究 岩崎 英治   日本では1960年代から1980年代までにいわゆる高度成長期といわれるごろに急速な経済発展のために,社会基盤整備の一環として土木インフラ構造物が大量に建築およびストックされてきた.その中には,道路や鉄道などの橋梁構造物も数多く含まれており,近年においては,建築から50年を迎える老朽化橋梁が年々増加している状況にある.このような背景から,近年ではこれらの対策として部分的な補強や補修が行われたり,桁全体が取り替えられたりしている.補修や補強にあたっては,鋼トラス橋における主構造部材および各斜材の耐荷力を適切に検討・評価したうえで合理的かつ経済的な対策や対処法を選定および決定する必要が強く求められている.そのためには,構造物の腐食状況の調査方法や腐食による耐荷力の低下などについての調査・研究ならびに基礎デートの蓄積が求められている.そこで,本研究では腐食減肉の生じた集成柱部材における様々な腐食ケースごとに座屈耐荷力が健全のときと比べて,どのように低下するのかを検討し,上記の構造物の腐食状況の調査法やそれにともなう耐荷力の低下の把握のための基礎デートを作ることを目的とする. 本研究では,長生橋(1937年)のD6の組み立て圧縮部材を対象として,有限要素法によるソフトを使って,線形弾性座屈解析と弾塑性有限変位解析による強度の評価を行った. まず,線形弾性座屈解析よりD6部材の健全時の全体および局部座屈荷重をそれぞれ求めた.次に,D6組立圧縮材のラチス材が腐食し,損傷したときを考え,解析を行った.その結果,ラチス材の破断位置が部材の中央になるほど全体および局部座屈荷重が低下することがわかった.次に,線形弾性座屈解析では部材に存在する初期不整および塑性域での挙動を考慮しておらず,部材の強度を過大評価してしまうがおそれがあった.そこで,D6部材の強度をより正確に評価するために,弾塑性有限変位解析を行った.線形弾性座屈解析の結果より,ラチス材が部材の端部および中央で破損すれば,座屈耐荷力に最も低下することがわかった.そこで,解析の計算時間省略を考慮し,部材の中央および端部のみでのラチス材の損傷を考え,弾塑性有限変位解析を実施した.そのために,ラチス材が損傷しうる16つのケースを考えて,解析した.その結果,16つのケースのうち,部材の中央部でラチス材16本が破損した場合,座屈耐荷力最も大きくて,健全の時に比べて18%低下した.それ以外の15つのケースでは座屈耐荷力低下量は10%にも満たなかった.したがって,チス材の損傷のみで部材の座屈耐荷力は低下することはなく,対象部材の設計は十分に安全側であると思われる.つまり,ラチス材の破断を発端としてD6部材さらに対象橋梁が崩壊することはないと考えられる.