武石敬也 カンボジア王国カンダール州北部のメコン川段丘崖の崩壊状況の把握 犬飼直之 カンボジアの首都プノンペンから約30km北に位置する区域におけるメコン川では,河岸浸食により河岸の斜面崩壊が発生しており,河岸付近の国道に危険が及ぶといった被害が発生している.本研究では現地測量調査の結果とiRICソフトウェアのNays2DHによる流況解析の結果から,メコン川の流況および河床の変動傾向を把握することで斜面崩壊の原因を考察し,それを元に対策を考察することで斜面崩壊被害の拡大防止に寄与することを目的とした. 測量調査からは,最大水深となる場所が斜面崩壊現場がある右岸側の河岸の非常に近くに位置する事に加え,流心が右岸側にあり現場付近の流速が大きい事が問題であると分かった.また,iRICソフトウェアを用いて現況の流況を解析したところ,1年のうち9か月程度は流心が右岸側にあり,残りの3か月程度は左岸側に流心があるが右岸側の流速も非常に大きい状況であることから年間を通して右岸側の流速が大きい事が分かった.また,現場付近の河床は現場によって異なるがおおよそ年間を通して浸食傾向であることが分かった.以上より斜面崩壊メカニズムを考察すると,右岸側の河岸近くの流速が大きいことで河床が浸食され,それにより河岸の斜面が急勾配となり,急勾配となった斜面が雨季に水没することで斜面勾配が安息角を超え崩壊に至ると推測された. 右岸側に流心があることで右岸側河岸付近の流速が大きくなるという問題点から,流心を移動させる対策が必要であると考え,浚渫を行うと仮定した解析を3ケース行い,右岸側の流速を減少させることが可能となるか簡易的に検証した.3ケースの中で中洲の東側の浚渫が最も効果を発揮し,乾季において右岸側の最大流速を4割以上減少させることが出来た.また,突堤を建設し流向を変化させることで蛇行の発達を抑制させることが可能と考え,流向の変化を簡易的に検証し効果を得ることが出来た.以上より短期的な対策として,現在被害が発生している現場はコンクリートで護岸することで浸食を防止することが必要であり,中長期的な対策としては,浚渫の実施と突堤の建設を組み合わせることで河川の蛇行の発達を抑制させることが必要であると考えられる. 今後の課題として,浚渫および突堤の効果が確実なものであるかを長期間の解析により明らかにすること,地下水位などの流況以外の観点から斜面崩壊の原因を考察することが必要であると考えられる.