菊地 野生 数値波動モデルを用いた海岸汀線付近の遡上波の変形に関する研究 細山田 得三 新潟西海岸は新潟県新潟市の信濃川河口から関屋分水までの間に位置する延長約2.5kmの海岸である.その背後には本州日本海側最大の都市である新潟市の中心市街地が広がっている.しかし信濃川のたび重なる洪水被害への対策としての河川改修が行われ,信濃川から海岸への供給土砂が減少するなどして,明治後期以降に海岸侵食が顕著となった.対策として約500m沖合の潜堤及び海岸から直角に伸びる突堤等の構造物を複合的に配置し,潜堤の背後に砂浜を造成する面的防護工法を採用した結果,汀線の後退は沈静化されたが,海岸保全のための定期的な監視・整備が今も行われている. 海岸で波が汀線を超えて陸上に乗り上げる現象は遡上と言われるが,打ち上げと称することもある.遡上波は前浜の海岸浸食の一因となり,海岸を管理する上で極めて重要である.従来,遡上高を定量的に評価するためには室内実験が行われ,それを基にした算定式や算定図が提案されている.一方で数値計算の手法としてナビエ・ストークス方程式に自由表面での砕波変形までも考慮できるVOF法を付加した方法が一般化しており,原理的に最も流体計算の本質に近い方法である.しかし,「計算時間や計算資源を要する」「一定の条件下で過大な評価となる」などの問題が報告されており,その特性を把握しておくことは有用である.本研究ではVOF法による数値波動水路CADMAS-SURFを用いて,新潟西海岸での遡上の計算を行い,実際の観測値や従来の評価方法である改良仮想勾配法との比較を行い,波の遡上の精度良い予測方法について検討した. 改良仮想勾配法をプログラム化し,各変数を変化させたときの打ち上げ高の挙動を調べた.その結果,挙動は概ね実現象に則していたが,海底勾配が1/30よりも緩やかになると打ち上げ高Rが過大に評価される可能性が確認できた.CADMAS-SURFの各種パラメータによる影響を調べた.その結果特に影響が大きかったのは,乱流モデル・格子間隔・差分スキームの設定であり,最適の計算条件を発見した. 2014年12月17日の爆弾低気圧時と2021年1月7日の現地調査時の2ケースについて再現計算を行った結果,実測値と計算値の差を概ね10%以内に収めることができた.改良仮想勾配法による算出が容易であるため,打ち上げ高を算出する際には基本的には改良仮想勾配法を用いるのが,海岸管理を容易にする上で適切であると結論づけた.