窪田匠 下水熱を活用したワサビ栽培技術と生育環境に関する研究 姫野修司 下水は1 年を通して温度が一定であり,夏期は冷たく冬期は温かいという特徴を持っている.下水が集約する下水処理場では多くの下水が安定して流入するため,豊富な熱源として夏期は冷熱,冬期は温熱の回収が可能である.そこで,我々は下水処理場で下水熱を用いた植物栽培を行っている. 現在540株のわさびをプラントで栽培している.わさびの栽培には冷涼な環境が必須であるため,栽培水を熱回収プロセスによって12〜14(℃)に保ちわさびに与えている.本研究の位置づけとして,プラントでは下水熱を利用したわさび栽培を行っており,下水熱によってわさびが生育するのかを検証している.しかし,プラントで実施している循環栽培では様々な問題が発生する.課題の検証をプラントで行うとわさびに影響を及ぼしてしまうため,本研究ではスケールダウンしたコンテナを用いて課題の検証を行った.また,本設備では電力を消費し栽培水を冷却・加温することで水温を一定に保っている.省エネ化を図るためコンテナ栽培では培地側面に断熱材を敷設し断熱を行っている. わさびは鼻を突くような独特の辛みを有している.このわさび特有の辛みはアリルイソチオシアネート(以下AITC)によって引き起こされる.わさびはAITCを溶出することで自身を害虫や細菌から守っている.一方でわさびの生育を阻害しているとも言われている.従来の栽培方法では湧水のかけ流しを行っているため,水の流れが一様で栽培水が再びわさびに戻ることはない.しかし,循環栽培では栽培水にわさびから溶出したAITCが濃縮してしまうという懸念がある.そこで,条件の異なる3つのコンテナでわさびを栽培し,AITCがわさびに及ぼす影響を評価した.また,断熱材を敷設したことによる断熱効果の検証を行うため,わさび消費熱量の実測値と推算値を算出し,当てはまりを確認したのち断熱材の有無による推算値の比較を行った. 循環栽培においてAITCが濃縮され成長を阻害するといわれているが,0〜0.002(mg/L)の濃度ではわさびの成長に影響を及ぼさない.また,現在の1週に全栽培水量の1/4換水では濃縮は見られない.次に推算値によるわさび消費熱量の比較により,断熱材を用いることで20%の熱量を削減することが可能である.